ニセコ町の水源を守れ:裁判の行方は?

環境の問題
水源地訴訟で揺れるニセコ町

2025年9月11日 土地の元所有者が和解案提出。ニセコ町が購入した40倍となる5億円を提示。

  1. ニセコの水源地で何が起こっているのか
    1. 1. 裁判が起きたきっかけ:争われている水源地
      1. 1.1. 争いの中心にある大切な資源
      2. 1.2. ニセコ町が土地を買った理由
      3. 1.3. 詐欺的な取引の疑い
    2. 2. 裁判の当事者とその主張
      1. 2.1. 訴えを起こした側(原告):株式会社ニセコパインヴィレッジ
      2. 2.2. 訴えられた側(被告):ニセコ町
      3. 2.3. 中間にいた関係者
    3. 3. 最初の判決と法的な考え方
      1. 3.1. 裁判が起きた時期
      2. 3.2. 判決の主な内容と法的な理由
      3. 3.3. 判決がもたらす影響
    4. 4. ニセコ町の対応:裁判での戦いと住民の動き
      1. 4.1. 控訴という決断
      2. 4.2. 前例のない住民署名活動
      3. 4.3. 住民運動の法的な意味と政治的な意味
    5. 5. ニセコ開発と土地管理の課題
      1. 5.1. 変わりゆくニセコにおける水の価値
      2. 5.2. 開発と法的な争いのパターン
      3. 5.3. 法律やルールの枠組み
    6. 6. 訴訟のまとめと今後の見通し
      1. 6.1. 浮き彫りになった深刻な疑問
      2. 6.2. 控訴審のシナリオ
      3. 6.3. ニセコの未来への長期的な影響
  2. 訴訟を起こしたニセコパインヴィレッジについて
    1. ニセコ・パインヴィレッジの背景にあるもの
  3. ニセコをとりまくさまざまな問題
    1. ニセコは、いろいろな国の会社が関係する特別な場所
    2. ニセコ町のオーバーツーリズム
      1. 外資系高級リゾート会社の破綻
    3. メガソーラーや森林伐採の問題も
  4. 各政党は外国人や外国資本の日本の土地購入を規制すべきと思っているか、規制には反対か
  5. まとめ: 健全な環境とまちづくりをどう守るか

ニセコの水源地で何が起こっているのか

今回は、北海道のニセコ町で起きている、水道水源の土地をめぐる裁判(正式には「所有権移転登記手続請求訴訟」)について、その複雑な事情や裁判での争点、そして地域の人々への影響を、詳しく分析してみます。

この裁判は、ニセコ町が持っている大切な水源地の土地(およそ16万平方メートル、東京ドーム約3.4個分)をめぐって、ニセコ町と、17年前にこの土地を所有していた「株式会社ニセコパインヴィレッジ」(山梨県の会社)という相手との間で争われています。

相手の会社は、裁判を起こした「原告」です。この会社は、第三者(全く関係ない人)に勝手に土地を売られてしまったと主張しています。具体的には、詐欺(人をだますこと)や書類の偽造(嘘の書類を作ること)によって、自分の土地が不当に売られたから、その所有権を元に戻してほしいとニセコ町に訴えを起こしました。

一方、ニセコ町は、裁判で訴えられた「被告」です。町は、町民の水道水源を守るというみんなのための目的で、ちゃんとした手続きで土地を手に入れた「善意の第三者」(不正な取引があったことを知らずに、信頼して取引した人)だと主張しています。

しかし、2024年9月に札幌地方裁判所が出した最初の判決(一審判決)は、相手の会社の主張を認め、ニセコ町に土地の所有権を相手に戻す手続きをするように命じました。

この判決を受けて、ニセコ町はすぐに控訴(上の裁判所に訴えること)すると決めました。同時に、町の人や町の外の賛成者から、21万筆を超える「嘆願署名」(お願いの署名)を集めるという、とても珍しい住民運動も始めました。

この出来事は、単なる土地の所有権の争いだけでは終わりません。ニセコは今、外国の企業がお金もうけのために、どんどん土地を買い進めています。その中で、町が守りたい「みんなの財産」と、開発の波がぶつかり合う、象徴的な例として注目されています。最初の判決の法的な理由や、それがニセコの土地取引に与えるかもしれない不安、そして住民の命を守るための町の苦労は、これからの日本のリゾート地で、土地に関するルールをどうしていくべきかを考える上で、とても重要なポイントになります。

1. 裁判が起きたきっかけ:争われている水源地

1.1. 争いの中心にある大切な資源

この裁判の中心になっているのは、ニセコ町の羊蹄地区にある、およそ16万平方メートル(東京ドーム3.4個分)の山林です。この土地には、ニセコ町の人口の約8割、およそ4,000人分の水を供給できる、湧き水や井戸水があります。つまり、町民の生活に絶対に欠かせない、みんなの財産です。

ニセコ町の水道水は、羊蹄山のふもとという素晴らしい自然と、たくさんの雪のおかげで、湧き水や井戸水といった地下水をそのまま使っています。その水はとてもきれいで、最低限の塩素消毒をするだけで、家庭に届けることができます。町は、この良い水を将来に引き継ぐことを大切な目標に掲げ、「水道水源保護条例」というルールを作って、水源地が汚れたり、水がなくなったりしないように努力してきました。

しかし、最近のニセコでは、急速な開発が進み、たくさんの木が切られたり、土地が整地されたりすることが、水を蓄える山の働きに悪い影響を与えるかもしれないと心配されています。今回の裁判で問題になっている土地は、このような開発の危険から、町の大切な水源を守るために買われたものでした。

購入価格は1,200万円でした。

1.2. ニセコ町が土地を買った理由

ニセコ町がこの土地を買ったのは、2013年1月のことです。その目的ははっきりしていて、民間企業による開発から水源への影響を防ぐためでした。当時、ニセコは国際的なリゾート地として開発がどんどん進んでおり、町は、住民の暮らしの土台である水の安全を確保するために、開発される前に水源地を町の所有にしなければならないと判断しました。町は、この土地をちゃんとした手続きで手に入れたと考えていました。

この土地の取得は、水源地を守るという町の考え方に沿ったもので、町が作った「ニセコ町水道水源保護条例」の考え方を具体的に実行したものでした。この条例は、水源を守る地域に建物を建てたり、土砂をとったり、木を切ったりすることを厳しく規制し、みんなの利益を優先する町の姿勢を示しています。

1.3. 詐欺的な取引の疑い

ニセコ町が土地を買ってからおよそ10年後の2023年5月、この土地の所有権を巡る裁判が始まりました。訴えを起こしたのは、町が土地を手に入れる4つ前の持ち主だった、山梨県の株式会社ニセコパインヴィレッジです。

この会社は、「2008年頃に、この会社からB社という別の会社へ土地が売られたのは、第三者(全く関係ない人)に勝手に、そして不正に売買されたもので、詐欺や書類の偽造があった」と主張しています。もしこの主張が本当なら、その後、B社、C社、D社、そしてニセコ町へと移った所有権は、すべて無効になってしまいます。そのため、この会社は、不正な登記を元に戻すために、今の持ち主であるニセコ町に土地の所有権を返すよう求めているのです。

この裁判が、このタイミングで始まったことは、とても重要な意味を持っています。不正な取引の疑いは17年も前にさかのぼるのに、裁判が起こされたのは、ニセコ町の土地の値段がとても高くなり、お金もうけを目的とした開発が盛んになった時期でした。ニセコ町が水源を守るためにこの土地を手に入れて守ってきた結果、土地の価値はさらに上がったと考えられます。皮肉なことに、町の公共的な努力が、この土地を裁判の標的として、より魅力的なものに変えてしまった可能性があるのです。この事実は、単に法律が正しいかどうかの問題を超え、「みんなの利益」と「お金もうけ」がぶつかり合う、根深い問題があることを示しています。

2. 裁判の当事者とその主張

この裁判は、一見すると単純な土地の所有権の争いに見えますが、複雑な取引のつながりと、たくさんの会社が関わっています。以下に、主な登場人物と彼らの主張をまとめます。

2.1. 訴えを起こした側(原告):株式会社ニセコパインヴィレッジ

原告である株式会社ニセコパインヴィレッジは、山梨県に本社を置く企業です。この会社は、リゾートの不動産開発に力を入れていて、ニセコにあるアンヌプリスキー場の周りの開発も手がけています。2008年頃にこの土地を持っていたとされています。

この会社が裁判で一番訴えていることは、「自分が関わっていないのに、第三者に不正な取引をされた」ということです。この勝手な売買は無効だと主張し、「真正な登記名義の回復」(正しい持ち主の名前を登記簿に戻すこと)を目的として、今の登記の名義人であるニセコ町に、所有権を返すように手続きを求めています。これは、所有権を不正に奪われた場合、最後の持ち主に対して、不正な登記を消して本当の持ち主の名前を元に戻す、という法律に基づいた手続きです。

2.2. 訴えられた側(被告):ニセコ町

ニセコ町は、みんなの利益を守るため、水道水源地を守る目的でこの土地を手に入れました。町の主張は、この土地が登記簿(土地の記録)の上では、A社(原告)からB社、C社、D社と経由して、2013年に町が手に入れるまで、きちんとした取引が行われてきたと信じていたということです。

町は、自分たちは「善意の第三者」だという立場をとっています。これは、土地の売買の途中で、以前に不正な取引や詐欺があったことを知らず、正直な取引で土地を手に入れた、という意味です。ニセコ町の山本副町長は、「きちんとした手続きで土地を買ったのに、17年も前の持ち主が『町の土地ではないので返してほしい』と言ってきたことは、正直信じられない状況だ」と、驚きと不満を隠していません。

2.3. 中間にいた関係者

この裁判には、原告とニセコ町の間に、いくつかの会社が関わっています。登記簿の上では、この土地は2008年に原告からB社に売られ、その後C社、D社という会社を経て、ニセコ町に所有権が移りました。

原告の会社は、この一連の取引で「第三者による勝手な売買」に関わった会社として「アンブロ社」という会社を名指ししており、この会社の社長はすでに亡くなっているということです。このことが、裁判をさらに複雑にしています。

当事者名役割(裁判での立場)主張・行動特徴
株式会社ニセコパインヴィレッジ(A社)原告(訴えを起こした側)17年前の勝手な売買は無効だと主張し、土地を返してほしいと求める元の持ち主。山梨県にある会社。
ニセコ町被告(訴えられた側)2013年に水源を守るために、合法的に土地を手に入れた「善意の第三者」だと主張みんなのための組織。町の水道水を管理している。
アンブロ社中間関係者(関わった会社)原告の主張では、第三者による勝手な売買に関わった会社。社長は亡くなっている。
B社、C社、D社中間関係者(関わった会社)原告と被告の間にいて、土地の転売に関わった会社。具体的な名前は不明。

3. 最初の判決と法的な考え方

この裁判は、一回目の判決でニセコ町が負けてしまい、「寝耳に水」(思いもよらないこと)のような大きな衝撃を与えました。この判決は、町の主張した「善意の第三者」という立場を、実質的に認めなかったことを意味します。

3.1. 裁判が起きた時期

この裁判が最初の判決に至るまでの流れは以下の通りです。

日付出来事
2008年頃原告(株式会社ニセコパインヴィレッジ)が土地を所有。第三者による勝手な売買が行われたとされる。
2013年1月ニセコ町が水道水源を守るために土地を手に入れる。
2023年5月株式会社ニセコパインヴィレッジがニセコ町を訴える。
2024年9月12日札幌地方裁判所で最初の判決。ニセコ町が負ける。
2024年9月26日ニセコ町が札幌高等裁判所に控訴(上の裁判所に訴える)する。
2024年10月4日ニセコ町の議会が、町長の控訴決定を正式に認める。
2025年8月8日町が水源地を守るための署名活動を始める。

3.2. 判決の主な内容と法的な理由

札幌地方裁判所の最初の判決は、原告の主張をすべて認め、「土地の真正な登記名義回復のための所有権移転登記手続きをせよ」(正しい持ち主の名前に戻す手続きをしなさい)とニセコ町に命じました。この判決の理由について、ニセコ町は、裁判で1963年の最高裁判例が判例として使われた結果、町が「最初の取引(A社からB社への売買)が正しかった」と証明できなかったことが、負けた原因だと分析しています。

この判決は、日本の土地の所有権に関するこれまでのやり方に、大きな問題を投げかける可能性があります。通常、土地を買う人は、登記簿(土地の記録)に書かれている情報や、土地を売る人が誰かをちゃんと確認して、信じて取引を行います。

しかし、今回の判決は、「たとえ17年も前の最初の取引に不正があった場合、その後に信じて土地を買った人(ニセコ町)の所有権でさえも無効になる」、という厳しい判断を示唆しています。これは、登記簿の情報がどれだけ信頼できるか、という法律の土台を揺るがしかねません。

ニセコ町が負けた理由は、町が不正を知らなかったのに、その前の取引が正しかったことまで証明する責任を負わされた点にあります。これは、土地を買うときに、何十年も前の取引までさかのぼって問題がないか確認しなければならないという意味で、特に複雑な取引履歴を持つ土地を手に入れることを、非常に難しくする可能性があります。

3.3. 判決がもたらす影響

もし最初の判決がこのまま確定すると、ニセコ町は町民の命綱である水源地を失うことになります。これは、町の水資源を守るという計画にとって、根本的な後退を意味します。さらに、町がこの土地を買うために使った税金が、確実に返ってくる保証がないというお金の問題も伴います。

この判決は、ニセコ町だけでなく、みんなのために土地を手に入れようとする全国の自治体にとっても、危険な前例となるかもしれません。たとえ町の努力で価値が上がった土地であっても、過去の個人的な取引の不完全さによって、所有権を失うかもしれないという不安定さが明らかになったのです。

4. ニセコ町の対応:裁判での戦いと住民の動き

最初の判決で負けるという「思いがけない」事態に対し、ニセコ町は二つの方法で対応を始めました。一つは、法律に基づいた控訴(上の裁判所に訴えること)。もう一つは、住民を巻き込んだ珍しい公的な運動です。

4.1. 控訴という決断

2024年9月26日、ニセコ町は最初の判決に不服があるとして、札幌高等裁判所へ控訴しました。これは、町長が一人で決めた後、10月4日の臨時町議会で正式に認められました。町は、控訴の理由について、「最初の判決は町の主張を全く聞いてくれておらず、正しい判断とは言えない」ので、受け入れられないと説明しています。

ニセコ町の山本副町長は、この判決に対し、「何を信じて土地を買えばいいのかというところで、どうしても納得がいかない」と話しており、公的な登記情報(土地の記録)を信頼して行った取引がひっくり返されたことへの強い不信感を示しています。

4.2. 前例のない住民署名活動

ニセコ町は、控訴審が始まる前に、2025年8月8日から、水源地を守るためのお願いの署名活動を大規模に始めました。この活動は、町が全家庭に署名用紙を郵送し、インターネットでも受け付けるという、とても大規模なものでした。その結果、締め切りまでに町民の半数以上にあたる約2,800人、そして町外の賛同者を含めて21万筆を超える署名が集まりました。

この署名活動は、法律の証拠として裁判所に提出するというよりも、水源地が町民にとってどれほど大切かを裁判所に伝えることを目的としていました。署名した町民からは、「水源は生活に必要だ」「正しいことが裁判で認められないのはおかしい」といった声が上がっており、町の人たちがこの問題をどれだけ深刻に受け止めているか、そしてどれだけ怒っているかが示されました。

4.3. 住民運動の法的な意味と政治的な意味

弁護士の田村勇人氏によると、このような嘆願署名が裁判の結果に直接影響を与えることはないそうです。裁判所は、法律の解釈と証拠に基づいて判決を出すため、民事裁判が世の中の意見や署名によって左右されることはない、というのが一般的な考え方です。田村氏は、署名活動は裁判所への影響力という点では「意味がない」と指摘しています。

しかし、ニセコ町がこの活動をあえて行った背景には、単に裁判に勝つ以上の狙いがあります。この運動は、複雑な所有権の問題を、「住民の生活を守るための水資源を、お金もうけを目的とした民間企業に渡してはいけない」という、もっと分かりやすくて人々の心に訴えかける話へと変えました。

これは、地域の公共の財産を守るという町の姿勢を広く社会にアピールし、世論を味方につけるという政治的な作戦です。署名に賛同した人々が抱く「外国人に買われてしまう」「違法な開発が続く」といった心配は、この裁判がニセコが直面している、もっと大きな問題の縮図であることを示しています。したがって、この嘆願署名は、法律的な力はなくても、地域の人々の団結を強め、問題への関心を高めるという点で、大きな意味を持っているのです。

5. ニセコ開発と土地管理の課題

今回の裁判は、ニセコ全体が直面している、根深い問題を浮き彫りにしています。水源地をめぐる争いは、急速な開発の波と、それに伴う自然や社会の変化が、最もはっきりと現れている場所で起きているのです。

5.1. 変わりゆくニセコにおける水の価値

ニセコは、冬のパウダースノーだけでなく、その豊かな自然と清らかな水によっても世界的に知られています。地下水を使う町の水道システムは、開発による水の汚れや、水がなくなるかもしれないという危険にいつもさらされています。

この水源地の裁判は、まさにこの危険が現実になった例と言えます。町の土地を手に入れた目的は水源を守ることでしたが、土地の値段が急に上がるという「お金もうけの考え方」が、過去の取引の法律的な欠点をついて、みんなの財産を個人的なものにしようと試みたのです。この例は、命の源である水がどれだけもろく、お金もうけのための土地開発という危険にさらされているかを示しています。

5.2. 開発と法的な争いのパターン

ニセコ水源地の裁判は、特別な出来事ではありません。羊蹄山のふもとにある倶知安町では、外国人が名義人になっている建物で、許可なく大規模な森林伐採や違法な開発が行われたと報じられています。こうした例では、工事を始める前の住民への説明会が開かれなかったり、日本語が通じない作業員がいたりして、地域のルールや法律が軽視される傾向が見られます。

こうした違法な開発は、多くの場合、とても大きな資金力を持つ企業や外国人投資家が中心になっており、地元の建設会社が彼らの指示の下で動いているという構図が指摘されています。ニセコ水源地の裁判は、このような開発の波が、違法な行為だけでなく、法律的な手段を駆使して公共の財産を奪うという、より高度な段階に移ったことを示唆しています。

つまり、今回の出来事は、行政のルールや監視をすり抜けるだけでなく、法律の抜け穴や過去の欠点をつくことで、ちゃんとした公共事業でさえも役に立たなくさせようとする動きの表れだと考えられます。

5.3. 法律やルールの枠組み

ニセコ町は、「水道水源保護条例」を作って、開発を防ぐための対策を講じてきました。この条例は、水源を守る地域に規制対象の施設を建てることを禁止したり、建設時には事前に話し合いや住民説明会を開くことを義務づけたりすることで、水源をさまざまな角度から守るための強力な道具になるはずでした。

しかし、今回の裁判は、このようなルールが、将来的な開発を防ぐことはできても、過去の法律的な欠点を狙った攻撃には弱いことを明らかにしました。町は、ちゃんとした手続きで土地を手に入れたと考えていましたが、裁判所は、登記簿の記録を覆す、もっと深い「本当の所有権」の存在を認めたのです。これは、町の条例が定める「保護地域」という考え方が、所有権をめぐる裁判では絶対的な守りにはならない、という厳しい現実を突きつけています。

6. 訴訟のまとめと今後の見通し

6.1. 浮き彫りになった深刻な疑問

ニセコ水源地の裁判は、地方の自治体が、住民の命の源である公共の資源を守ろうとする努力が、過去の分かりにくい取引をめぐる法律の争いによって危険にさらされている、という構図を示しています。最初の判決は、1963年の最高裁判例に基づいて、ニセコ町が主張する「善意の第三者」という立場よりも、最初に所有権が移った時の不完全さを重要視したとみられます。これは、公式な登記(土地の記録)がどれだけ信頼できるか、また、自治体がみんなのために土地を手に入れる時の法律的な安定性に、深刻な疑問を投げかけるものです。

ニセコ町が展開した21万筆を超える署名活動は、裁判で勝つか負けるかには直接影響しませんが、この裁判が単なる個人的な権利の争いではなく、みんなの利益と住民の生活に関わる重大な問題であることを、社会に広く知らせる上で大きな役割を果たしました。

6.2. 控訴審のシナリオ

これからの控訴審は、ニセコ町の将来に大きな影響を与えます。

  • シナリオA:控訴が認められず、最初の判決がそのままになる場合
    • ニセコ町は水源地を失い、住民の生活の土台が揺らぎます。
    • 土地をもう一度手に入れるには、市場の価格でとてつもないお金が必要になり、町の財政に大きな負担がかかります。
    • 過去の所有権の欠点を理由に、みんなのための団体が手に入れた土地が奪われるという前例ができてしまい、全国の自治体にとって土地の管理が不安定になります。
  • シナリオB:控訴が認められ、最初の判決がひっくり返る場合
    • ニセコ町は水源地の所有権を維持し、町の水資源を守るという計画が法律的にも正しいと認められます。
    • 公的な機関が信じて手に入れた土地の所有権が守られるという判断が示され、これからの土地取引の法律的な安定に貢献します。
    • この判決は、開発の圧力がかかっている他の地域に住む自治体が水源地を守る取り組みを、後押しする強いメッセージとなります。

6.3. ニセコの未来への長期的な影響

今回の裁判は、ニセコが直面する「開発と保全の衝突」を象徴する出来事です。最初の判決が示すように、法律的な手段を使って所有権を奪い取ることは、自治体のルールや、みんなのための土地の取得を無力化する、新しい危険になりかねません。

このケースは、地方の自治体が水源や森林といったみんなの資源を守るためには、単にルールを作ったり、土地を買い上げたりするだけでなく、もっと強力な法律的な守りを用意する必要があることを示しています。

それは、お金もうけを目的としたお金が入り込む市場の中で、どうやってみんなの利益を一番に守るかという、日本全体に共通する課題でもあります。控訴審の判決は、ニセコの未来だけでなく、急速な開発が進む日本のほかの地域の土地管理のあり方にも、大切な道しるべを与えることになるでしょう。

訴訟を起こしたニセコパインヴィレッジについて

「株式会社ニセコパインヴィレッジ」という会社と、その関係者についてもう少し詳しくみていきましょう。まずは、とても似た名前の会社が2つあるので、混同しないようにというのをはじめに話します。

  • 株式会社ニセコ・パインヴィレッジ(山梨の会社):ニセコではなく山梨県の会社で、ニセコ町と「土地の所有権」をめぐって裁判をしている会社です 。 現在ニセコでリゾートを運営しているわけではないようで、活発にビジネスをしている会社というよりは、裁判のために存在している会社だと思われます。
  • ニセコビレッジ株式会社(YTLグループ):この会社は、今回の裁判とは全く関係がなく、マレーシアのYTLグループという会社が親会社です。トップには、Sir Francis Yeoh(サー・フランシス・ヨー)さんという人や、ホテル部門をまとめているDato’ Mark Yeoh(ダトー・マーク・ヨー)さんという人がいます。彼らは、マレーシアのビジネス界でとても有名な人たちです 。
    • 「ニセコを世界で一番素敵なリゾートにしよう」という長期的な目標を掲げており、「話せばわかる」 印象の会社です。

ニセコ・パインヴィレッジの背景にあるもの

今回の裁判の原告「株式会社ニセコパインヴィレッジ」は、法人番号が「6090001001636」の会社です。この会社は、北海道ではなく、山梨県に本社があります 。この会社は、今ニセコでリゾートの仕事をしている会社ではありません。    

本社がニセコではなく山梨県にあるのは、単なる住所の話ではありません。これは、この会社がニセコで積極的にビジネスをしているわけではなく、特定の目的(この場合は裁判)のために存在している可能性が高いことを意味しています。  

また、代表者の名前も不明で、調べたどの資料にも載っていませんでした 。これは、普通にビジネスをしている会社では珍しいことです。  

代表者の名前が公にわからないのは、この会社がどんな会社なのかを知る上で重要な手がかりになります。この会社は長年裁判をしていますが、その存在目的がその裁判だけに限られている可能性が高いです。このことは、「株式会社ニセコ・パインヴィレッジ」は一般的な事業活動をしていない会社であることを示しています。

ニセコをとりまくさまざまな問題

ニセコは、いろいろな国の会社が関係する特別な場所

ニセコのビジネスは、一つの大きな会社がすべてを支配しているわけではありません。むしろ、たくさんの国々の会社が、リゾートのいろいろな場所をそれぞれ持ったり、運営したりしている特別な場所です。

リゾートの名前持っている会社/親会社どこからのお金かニセコでの主なリーダー
ニセコビレッジYTLグループマレーシアSir Francis Yeoh, Dato’ Mark Yeoh
花園エリアPCCWグループ香港不明
グラン・ヒラフ東急リゾート日本不明
ニセコアンヌプリ国際スキー場中央バスニセコ観光開発株式会社日本不明

ニセコ町のオーバーツーリズム

ニセコは、世界的に見ても非常に珍しい、雪質が優れているスキーリゾートです。その秘密は、シベリアからの冷たい季節風と、日本海を渡る間に湿気を含んだ空気が、羊蹄山にぶつかって大量の雪を降らせるという独特の気候にあります。この雪は水分が少なく、驚くほど軽い「パウダースノー」として知られており、世界中のスキーヤーやスノーボーダーを魅了してきました。

特に、1990年代後半からオーストラリア人スキーヤーの間でその名が知られるようになり、彼らが「まるで雪の天国だ」とSNSや口コミで広めたことで、欧米やアジア圏にもその評判が広まりました。

ニセコの人気が高まるにつれ、外国資本がリゾート開発のために大量の土地を購入するようになりました。その結果、以下のような問題が深刻化しています。

  • 地価・物価の高騰: 外国資本が別荘やコンドミニアムを建設するために土地を買い占め、地価が急騰しました。これにより、地元住民は家を購入したり借りたりすることが非常に困難になっています。
  • 交通渋滞: 観光客の増加により、主要道路が混雑し、地元住民の生活に大きな影響が出ています。
  • 環境への影響: 森林伐採や無秩序な開発が進み、美しい自然景観が損なわれる事態も起きています。
  • ゴミ問題: 観光客の増加に伴い、ゴミ処理が追いつかず、不法投棄が問題となっています。

これらの要因が複合的に絡み合い、ニセコ町の環境や住民生活に大きな影響を与えています。

外資系高級リゾート会社の破綻

ニセコ町内でリゾート開発を進めていた外資系高級リゾート会社「ザ・シャレッツ・アット・カントリーロード合同会社」は、2025年4月11日(令和7年4月11日)に経営破綻しました。代表者はオーストラリア国籍のマット・リチャーズ氏です。この破産により、建設途中の物件が放置され、景観や地域の経済に影響を与えています。

メガソーラーや森林伐採の問題も

ニセコ町では、観光客の増加に伴う地価や物価の高騰、交通渋滞といった問題に加え、無許可での森林伐採メガソーラー開発に関連する問題が起きています。

倶知安町では外国人が代表を務める企業が無許可で大規模な森林伐採を行い、ニセコ町でも同様に、必要な届け出がないまま森林が伐採されていたことが明らかになりました。これらの無秩序な開発は、町の景観だけでなく、水源や自然環境の保全に対する懸念も高めています。

また、北海道内ではメガソーラー開発を巡って、事前調査の不十分さや希少生物への影響が問題視されており、釧路湿原で起きた事例では、事業者が工事続行の意向を示す一方で、行政側が対応を求めるという状況が続いています。ニセコ町も「ニセコ町再生可能エネルギー事業の適正な促進に関する条例」を制定し、自然環境や景観に配慮した開発を求めていますが、無許可での開発や規制をすり抜けるような行為が問題となっています。

これらは、オーバーツーリズムによる経済的な問題だけでなく、地域の自然や環境そのものへの影響が新たな課題として浮上していることを示しています。

各政党は外国人や外国資本の日本の土地購入を規制すべきと思っているか、規制には反対か

日本の水源地や国土保全に関する政策は、各政党によって考え方が異なります。

今回は、外国人や外国資本が日本の土地を購入することについて各政党の意見を見てみましょう。そして各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。

  • 自由民主党(自民党:保守、中道右派、左傾傾向)
    • 規制に賛成 政府は、外国人が土地などを取得・管理することについて、政府横断の司令塔組織を設ける方針です。これは、自民党の提言を反映したものです。
  • 立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
    • 外国人による土地の購入・所有に対する直接的な政策は明確にされていません。国土保全に関しては、各自治体への権限移譲や環境保護の観点から議論されています。
  • 日本維新の会(保守、右派、リベラル)
    • 規制に賛成 2024年12月23日(令和6年12月23日)に、外国人による土地の取得などを規制する法律案を国民民主党と共同で提出しました。
  • 公明党(中道、保守)
    • 外国人による土地の購入・所有に対する直接的な政策は明確にされていません。公明党は、「水循環基本法」の成立を推進するなど、水資源の保全を重視する姿勢を示しています。
  • 国民民主党(中道、保守、リベラル)
    • 規制に賛成 「自分の国は自分で守る」ことを政策の柱としており、「食料」「土地」「海」「情報」を守ることを掲げています。その中で、外国人による土地取得規制を明確に掲げています。
  • 日本共産党(革新、左派)
    • 外国人の土地購入規制には反対、投機目的の規制には賛成 外国人という枠で規制することには反対ですが、投機目的の不動産購入そのものに規制をかけるべきだと主張しています。
  • 参政党(保守、右派)
    • 規制に賛成 「世界でも貴重な日本の水資源の維持と保全に向けた規制の強化」を政策として掲げています。
  • れいわ新選組(革新、左派)
    • 外国人による土地の購入・所有に対する直接的な政策は明確にされていません。森林の適切な保全・管理を通じて土砂災害や洪水への防災力を高めることを政策として掲げています。
  • 日本保守党(保守、右派)
    • 規制に賛成 日本の領土・領海・領空を保全するための法整備を掲げ、外国人による土地買収に対する規制強化を主張しています。

まとめ: 健全な環境とまちづくりをどう守るか

ニセコ町が直面している水源の購入やオーバーツーリズム、地価高騰の問題は日本の他の地域でも起こりうるものです。

この問題は、経済的な発展と、大切な自然や住民の暮らしをどう両立させていくかという、非常に難しい課題を私たちに投げかけています。日本の水源や国土をどう守っていくか、そして、地域コミュニティの未来をどう形作っていくか、皆さんはどう考えますか。

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