人を襲うクマ。どうすればいい?

環境の問題
熊の骨は銃の弾も跳ね返すほど固い。急所に当たらないとこっちがやられる。

クマが町に現れて人を襲うことが増えている

最近、「アーバンベア」という言葉を聞く機会が増えました。これは、山から下りてきて街に出没するクマのことです。なぜクマは、人間が住む場所に出てきて人が襲われることが多くなったのか。いろんな角度から考えてみましょう。

日本に住むクマの種類と被害の現状

日本には、主にヒグマツキノワグマの2種類のクマが生息しています。ヒグマは北海道に、ツキノワグマは本州以南に住んでいて、それぞれ生態が異なります。

クマによる人身被害は、近年、非常に深刻な問題となっています。環境省のデータによると、2023年度はクマによる人身被害が過去最多の218人に達しました。特に被害が多かったのは、秋田県をはじめとする東北地方です。この数字は、私たちが思っている以上に、クマが身近な存在になっていることを示しています。

クマによる人身被害件数の推移(2010年~2025年)

年  負傷者数死者数合計被害者数
2010年102人1人103人
2011年82人1人83人
2012年100人2人102人
2013年86人3人89人
2014年85人0人85人
2015年148人0人148人
2016年185人2人187人
2017年56人1人57人
2018年81人1人82人
2019年150人2人152人
2020年158人2人160人
2021年103人4人107人
2022年166人1人167人
2023年212人6人218人
2024年71人1人72人
2025年55人0人55人(4-7月速報)

※2010年~2023年のデータは確定値、2024年と2025年のデータは速報値または推定値です。

統計からわかるクマ被害傾向

この15年間の統計を見ると、いくつかの明確な傾向が見て取れます。

  1. 被害の増加傾向: 2010年代前半は年間100人前後で推移していましたが、2015年以降は被害が急増する年と落ち着く年が繰り返されるようになりました。特に2016年2023年は過去最多を更新し、クマ被害が深刻化していることがわかります。
  2. 特定の年の被害急増: 被害が特に多かった2015年、2016年、2023年は、山でクマの主食となるブナやミズナラといった木の実が全国的に大不作だった年と重なります。エサが不足したクマが人里に下りてくることで、人との接触機会が増加したことが主な原因と考えられています。
  3. 地域的な偏り: 被害は、北海道のヒグマと本州以南のツキノワグマの生息地域で発生していますが、特に東北地方や北陸地方で件数が多くなる傾向にあります。

2024年・2025年のクマ被害状況

  • 2024年: 2023年の大不作の反動で、2024年春は木の実が豊作になると見込まれ、冬眠明けの出没は例年より少なかったものの、夏にかけて被害が増加しました。速報値ではありますが、多くの被害が報告されています。
  • 2025年: 4月から7月で55人と、2023年の過去最高のペースで被害が広がっています。今後も注意が必要です。

アーバンベア(町に出てくる)が増えたのはなぜ?

クマが街に現れるようになった原因として、さまざまなことが議論されています。その中でも、特に注目されているのが以下の点です。

  • エサ不足: クマの主なエサは、山にあるブナやミズナラといった木の実です。これらの実が不作になると、クマはエサを求めて人里に下りてくることが増えます。2023年の被害増加も、木の実の不作が大きな原因とされています。
  • 人間の生活圏の変化: 森林伐採や開発が進み、クマの住む場所と人間の生活圏が近づいてきています。
  • ゴミの味を覚えた: 人里に下りてきたクマは、畑の農作物や生ゴミの味を覚えることがあります。一度おいしい味を知ると、それを求めて何度も街に現れるようになり、人への警戒心が薄れてしまいます。
  • 個体数の増加: 環境省の推計では、ツキノワグマの生息数は2010年代から増加傾向にあり、生息域も広がっているとされています。

クマの駆除、どうすればいい?複雑な議論

クマが街に出没し、人を襲うようになると、行政は駆除を検討します。しかし、この駆除をめぐって、世論は激しく対立しています。

  • 「かわいそう、殺さないで」という意見:
    • 「クマも生きるために必死なんだから、かわいそう」「クマの住む場所を奪った人間が悪いのに、なぜ駆除するのか」という意見です。SNSなどでは、駆除されたクマの写真が拡散され、行政やハンターに厳しい批判が集まることもあります。
  • 「行政は仕事をしろ、絶滅させろ」という意見:
    • 「人が死んでいるのに、なぜすぐに駆除しないんだ」「行政の怠慢だ」「クマなんて絶滅させてしまえばいい」という意見です。特に被害に遭った地域の人々からは、迅速な対応を求める声が強く、行政の対応が遅いと批判されます。

猟友会が行政からの依頼を拒否?

クマの駆除は、主に「猟友会」という組織のハンターが担っています。しかし、彼らは非常に厳しい状況に置かれています。

近年、多くの猟友会が自治体からの駆除依頼を断るケースが増えています。その背景には、行政の対応に対する不信感や、ハンターが負うリスクがあまりにも大きいことがあります。

命がけの仕事:クマは非常に危険な動物です。急所に弾が当たらなければ、反撃されて命を落とす危険があります。クマの駆除は、文字通り命がけの仕事なのです。

理不尽な批判:駆除をすれば「かわいそう」と批判され、駆除しなければ「危険だ」と批判されます。こうした理不尽な声に心を痛めるハンターも少なくありません。

猟友会が最も怒ったのが、道猟友会砂川支部長の池上治男さんの事件です。

2018年8月、北海道の砂川市にヒグマ1頭が出現したことから、市の要請を受けた地元の猟友会支部長が現場に出動しました。池上氏はヒグマを逃がすことを提案しましたが、市の職員が駆除を求めたことから、市の職員や警察官が見守る中でライフル銃を1発発射してヒグマを駆除しました。この際、警察官は発砲を制止することはありませんでした。

ところが、その約2か月後の同年10月、同行していた別の人物が警察に対し、発射された銃弾が跳弾して銃床が破損したなどと申告したことから、警察が捜査を行い、池上氏を書類送検しました。検察はこのハンターを不起訴としましたが、北海道公安委員会は2019年4月、この発砲行為が「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって銃猟をした」ことにあたると判断し、ライフル銃の所持許可を取り消す処分をしました。

池上氏はこの処分の取消しを求める訴訟を起こしましたが、2024年10月18日、札幌高等裁判所は、この公安委員会の処分は妥当であるとして、池上氏の請求を棄却する判決を下しました。

このように、行政からの正式な依頼で市民の安全を守るために行動したにもかかわらず、厳しい処分が下される可能性があることが明らかになったのです。この判決を受けて、北海道猟友会は、今後のヒグマ駆除の要請を拒否することも検討する事態に至りました。

また、あまりに安すぎる駆除料も問題になりました。たとえば、クマ1頭の駆除に対して支払われる報酬は、国からの交付金はわずか8千円で、これに自治体がいくらか上乗せをしているのですが、それでも1万円程度というケースも少なくありません。

駆除には多くの時間と労力がかかり、弾代や車両のガソリン代なども自腹です。そして命の危険もありますので、これでは割に合わず、命の危険を冒して駆除をしようと考える人が減ってしまいます。現在は1頭あたり5万円から8万円程度の報酬となっているようですが、猟友会の高齢化も進んでおり、担い手不足は深刻です。

政治家たちはクマ問題にどう向き合っている?

次に、各政党がこのクマ被害の問題に対して、どのような政策を掲げているか、特に、熊の駆除に対しての賛成・反対を重点的にみていきましょう。

  • 自由民主党(自民党:保守、中道右派 左傾傾向)
    • 賛成 環境省や農林水産省を中心に、被害対策を強化する方針です。クマの個体数管理や、生息域のモニタリング調査を強化し、科学的なデータに基づいて被害防止策を講じています。
  • 立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
    • 慎重 安易な駆除には慎重な姿勢です。クマの生息地と人間の生活圏が交わらないようにするための対策や、被害に遭った農家への補償などを通じて、人とクマが共存できる社会を目指すべきだと主張しています。
  • 日本維新の会(保守、右派、リベラル)
    • 賛成 国民の生命と財産を守ることを最優先に掲げています。被害が発生した場合の迅速な駆除体制の構築や、ハンターを支援するための報酬引き上げ、そして若手ハンターの育成などを強く訴えています。
  • 公明党(中道、保守)
    • 賛成(ただし慎重な判断) 被害の防止と共存をバランスよく進めることを目指しています。クマの生息地での対策(電気柵の設置など)を進める一方、被害が発生した場合は、住民の安全を第一に考えて対応すべきだとしています。
  • 国民民主党(中道、保守、リベラル)
    • 賛成 現実的な観点から、国民の安全を守るための対策を重視しています。ハンターが安心して駆除に携われるような法的な保護や、報酬の適正化を求めています。
  • 日本共産党(革新、左派)
    • 反対 安易な駆除ではなく、人と野生動物が共存できる社会を目指すべきだとしています。クマの生息環境をこれ以上破壊しないようにすることや、農作物への被害を減らすための電気柵設置など、駆除以外の対策を国が支援することを求めています。
  • 参政党(保守、右派)
    • 慎重 クマ被害の根本原因には、人間の手によって自然が壊されていることがあると指摘しています。日本の豊かな自然を守ることで、クマ被害も減らせるのではないかと主張しています。
  • れいわ新選組(革新、左派)
    • 反対 動物保護の観点から、駆除には慎重な立場です。クマ被害の背景には、人間の都合による環境破壊があるとして、根本的な原因に目を向けるべきだと主張しています。
  • 日本保守党(保守、右派)
    • 賛成 国民の安全を最優先に考え、迅速な対応を求めています。クマ被害から国民を守るために、行政の対応を強化し、被害が拡大する前に適切な駆除を行うべきだという立場です。

まとめ

クマ被害は、単に「かわいそうだから殺すな」とか「怖いから絶滅させろ」といった単純な問題ではありません。私たちの生活圏とクマの生息地が重なり始めたことで、起きた複雑な問題です。

クマが街に出てきた背景には、人間の都合で進められた開発や自然破壊、そしてハンター不足といった、たくさんの原因があります。この問題を解決するためには、安易な解決策に飛びつくのではなく、なぜこんなことが起きているのか、しっかりと考える必要があります。

日本の未来を考えたとき、私たちはクマとどう付き合っていくべきでしょうか。

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