原子力潜水艦の保有が日本の安全保障に与える影響について
近年、中国、ロシア、北朝鮮といった核保有国や軍事大国の動向が緊迫化する中で、日本国内では「抑止力(攻撃を思いとどまらせる力)を抜本的に強化すべきではないか」という議論が高まっています。その中で特に注目されているのが、原子力潜水艦(原潜)の保有です。
原潜は、非常に長い期間潜航し続けられるため、敵から探知されにくいという特性があり、「反撃能力」を持つための手段として議論の対象となっています。この大きなテーマは、単なる軍事問題ではなく、日本の防衛戦略、財政、そして国際的な核不拡散の原則に関わる、極めて重要な政治的選択となっています。
小泉防衛大臣が示した原子力潜水艦導入の考え方
令和7年(2025年)10月、小泉防衛大臣は、防衛省・自衛隊の組織改革について検討する会議において、原子力潜水艦の導入を「排除しない」という考えを示しました。
これは、日本が長らく堅持してきた非核三原則(核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」)とは直接矛盾しませんが、従来の防衛議論の枠を超えた、抑止力強化への強い意欲を示すものとして、大きな波紋を呼びました。
小泉大臣の発言の背景には、周辺国の軍備増強が進む中で、日本の安全を確保するためには、探知が極めて難しい潜水艦に長射程ミサイルを搭載し、海中から反撃できる能力を持つことが必要であるという認識があるとされます。この発言をきっかけに、原潜保有の是非が本格的な政治テーマとして浮上しました。
国際情勢と核の脅威:日本周辺の軍事バランスが原子力潜水艦の議論に与える影響について
日本周辺では、核保有国や軍事大国による軍備増強や核兵器に関する発言が相次いでおり、地域の軍事バランスは大きく揺らいでいます。こうした国際情勢の緊迫化が、日本が原潜の保有を検討する直接的な背景となっています。
韓国の原子力潜水艦保有とトランプ大統領の同意
韓国は、北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗するため、原子力潜水艦の保有を長年の目標としてきました。令和7年(2025年)10月、トランプ米大統領は、韓国の尹大統領との会談で、韓国海軍のための原子力潜水艦を「米国内で建造する」ことで同意したと報じられました。
これは、アメリカが同盟国である韓国の抑止力強化に深く関与する姿勢を示したものであり、非核国による原潜保有という点で、日本国内の議論にも大きな影響を与える出来事となりました。韓国が原潜を保有することで、アジア太平洋地域の軍事バランスが変化し、日本も同様の能力を持つ必要性が高まるのではないかという見方が強まっています。
トランプ大統領の「核実験」表明とロシアの反応
さらに、核兵器をめぐる国際的な緊張も高まっています。令和7年(2025年)10月、トランプ大統領は、「核実験」を行うことを表明し、これに対しロシアのプーチン大統領は、安全保障会議で「本格的な核実験の準備に直ちに取りかかるのが賢明だ」と結論づけています。
米露のトップが相次いで核実験に言及したことは、核軍備管理の枠組みが崩壊し、核軍拡競争が再燃する懸念を生じさせています。日本は世界で唯一の原子爆弾の被爆国として、核兵器のない世界を目指す立場ですが、核保有国によるこうした動きは、日本の安全保障政策、特に抑止力のあり方を根本から見直すきっかけとなっています。
自民党と維新の政策合意に見る原子力潜水艦保有への道筋:長距離・長期間の抑止力強化
日本の主要政党である自由民主党と日本維新の会は、令和7年(2025年)10月に、「連立政権に向けた政策合意書(12本の矢)」を締結しました。この合意書の中には、日本の抑止力を大幅に強化するための具体的な計画が盛り込まれており、その中で原子力潜水艦(原潜)の保有につながる内容が記述されています(出典:自由民主党・日本維新の会 政策合意書 令和7年10月)。
次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有
政策合意書の記述には、「わが国の抑止力の大幅な強化を行うため、スタンド・オフ防衛能力の整備を加速化する観点から、反撃能力を持つ長射程ミサイル等の整備及び陸上展開先の着実な進展を行うと同時に、長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有に係る政策を推進する。」と明記されています。
このうち、「長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力」という表現は、固体電池、水素、原子力などの動力を指していると解釈されていますが、現実的なものとしては実質無限の航行が可能な原子力が筆頭だろうと言われています。
スタンド・オフ防衛能力とVLS搭載潜水艦の役割
- スタンド・オフ防衛能力とは:
- 「スタンド・オフ」とは、「離れた場所から」という意味です。この能力は、相手の脅威の射程圏外から、ミサイルなどを発射して敵の艦艇や上陸部隊、あるいはミサイル発射拠点を攻撃する能力を指します。敵の攻撃を受けることなく反撃できるため、自衛隊員のリスクを低減し、抑止力を高める上で重要とされています。政策合意書は、このスタンド・オフ能力を長射程ミサイルの整備によって加速化すると述べています。
- VLS搭載潜水艦とは:
- VLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)とは、ミサイルなどを艦の甲板から垂直に発射するための装置です。このVLSを潜水艦に搭載することで、潜航中でも様々な種類のミサイルを迅速に発射できるようになります。
- 潜水艦がVLSと長射程ミサイルを持つことで、敵から探知されることなく広範囲にわたる「反撃能力」を発揮できるため、日本の抑止力の要となることが期待されています。このVLS搭載潜水艦に「次世代の動力(原子力)」を組み合わせることで、無制限の航続距離と長期間の潜航が可能となり、抑止力として最大限の効果を発揮できると考えられています。
原子力潜水艦保有のメリットと憲法・コストの問題について
原子力潜水艦の保有は、日本の安全保障を巡る議論の中で、最も費用と議論の対象となる論点の一つです。
抑止力強化と非核三原則との関係
原潜保有の最大のメリットは、その高い隠密性による抑止力の強化です。原潜は、原子力で動くため、燃料補給の必要がなく、数ヶ月間にわたって海中に潜航し続けることができます。これにより、敵国は日本の反撃能力の位置を特定できず、攻撃を思いとどまる効果が高まります。これは、「反撃能力」を効果的に運用するための「生残性(生き残る能力)」を確保する上で非常に重要です。
一方で、原潜はあくまで動力源が原子力である非核兵器であり、日本が定めた非核三原則の「核兵器を持たず」という原則には抵触しないとされています。しかし、原潜は核兵器を搭載することが技術的に容易であるため、国際社会からは「核武装への一歩ではないか」という疑念を持たれる可能性があり、核不拡散体制に悪影響を与えるのではないかという懸念も示されています。
憲法と防衛上の課題、そして膨大なコスト
原潜を保有することには、技術面と財政面での課題が山積みです。原子力機関の設計・建造・運用には、極めて高度な技術と厳格な安全基準が求められます。また、その建造費や維持費は通常の潜水艦の数倍になると見込まれています。具体的な数値については公表されていませんが、専門家は一隻あたり数千億円規模の費用が必要になると推定しています。
この膨大なコストを、防衛費増額の中でどのように確保し、他の防衛分野や国民生活とどうバランスを取るのかが、重要な政治的論点となっています。さらに、原潜の運用は憲法第9条が定める「専守防衛(相手からの武力攻撃を排除するために初めて防衛力を行使する)」の範囲内であるかについても、議論が続いています。
各政党の政策:原子力潜水艦保有に対する考え方を見てみましょう
各党の考え方や主張は最新の各政党ホームページの政策や公約、党首の発言、ニュース記事などを参考にしています。各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。
自由民主党(保守、中道右派)
自由民主党は、抑止力の抜本的強化の観点から、原子力潜水艦の保有について前向きな姿勢を示しています。
- 「反撃能力」の運用において、長期間の潜航能力と隠密性を持つ潜水艦は不可欠であり、次世代の動力を活用した潜水艦の保有に向けた政策的な推進を行うという姿勢を明確にしています(出典:自民党・維新の会 政策合意書 令和7年10月)。保有の実現には非核三原則を遵守しつつ、技術的な安全性を確保するとしています。
日本維新の会(保守、右派、リベラル)
日本維新の会は、自主防衛の強化と抑止力の強化を主張しており、原子力潜水艦の保有に積極的です。
- 自由民主党との政策合意において、「長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有に係る政策を推進する。」という記述を盛り込みました(出典:自民党・維新の会 政策合意書 令和7年10月)。これは、原子力潜水艦の保有を具体的に目指すという強い意思を示しています。
国民民主党(中道、保守、リベラル)
国民民主党は、現実的な安全保障を重視しており、原子力潜水艦の保有については、技術的な実現可能性や財政的な負担を考慮しつつも、抑止力強化の観点から検討すべきという姿勢です。
- 北朝鮮や中国の軍拡に対応するため、日本の防衛力強化は必要不可欠であるとし、長期間の潜航能力を持つ潜水艦の有用性は認めています。ただし、非核三原則の堅持や原子力安全に関する議論を十分に行うことを前提としています。
参政党(保守、右派)
参政党は、国益の最優先と自主防衛の確立を主張しており、原子力潜水艦の保有については積極的な検討を促しています。
- 他国の軍事的な脅威が高まる中で、日本の主権と安全を守るためには、高い抑止力を持つ装備を自前で持つべきとしています。その際、国内での技術開発や原子力安全に関する議論を国民に広く開示すべきとしています。
日本保守党(保守、右派)
日本保守党は、国益と防衛を最重要視する立場から、原子力潜水艦の保有に賛成の立場です。
- 周辺国の核・ミサイルの脅威が高まる中、日本の安全を守るためには、長期間・長距離の行動力を持ち、生存性の高い潜水艦は必須の装備であると主張しています。
立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
立憲民主党は、専守防衛の堅持と平和外交を重視しており、原子力潜水艦の保有には慎重、または反対の姿勢です。
- 原潜の保有は、周辺国の軍拡競争をさらに煽る可能性があるとし、外交努力による緊張緩和を優先すべきとしています。また、非核三原則との関係や、膨大な財政負担についても強く懸念を示しています。
れいわ新選組(革新、左派)
れいわ新選組は、軍拡競争への反対と平和憲法の堅持を主張しており、原子力潜水艦の保有には明確に反対しています。
- 膨大な防衛費の増額は、国民の生活や社会保障を圧迫するものであり、原潜のような攻撃的な性格を持つ装備の保有は専守防衛の原則に反するとしています。
公明党(中道左派、リベラル)
公明党は、「平和の党」として非核三原則の堅持と平和外交を重視しており、原子力潜水艦の保有には慎重な姿勢です。
- 原潜保有が国際的な核不拡散体制に与える影響や、周辺国の不必要な警戒を招くことへの懸念を示しています。抑止力強化は必要としつつも、その手段は専守防衛の枠内で、国民の理解を得られるものであるべきとしています。
日本共産党(革新、左派)
日本共産党は、平和憲法第9条の堅持を主張しており、原子力潜水艦の保有には明確に反対しています。
- 原潜は「攻撃型」の兵器であり、専守防衛の原則を逸脱するものであり、日米安保条約の強化と一体で進められる軍拡競争の一環であるとしています。核兵器廃絶を目指す外交努力こそが重要であるとしています。
まとめ: 日本は原子力潜水艦を持つべきか?抑止力と国際協調の選択が未来を決める
原子力潜水艦の保有は、中国、ロシア、北朝鮮といった核保有国に対する抑止力を大幅に強化し、日本の安全をより強固なものにする可能性があります。しかし、その選択は、膨大な財政負担、原子力安全への対応、そして非核三原則と国際的な核不拡散体制への影響という、国としての大きな決断を伴います。
あなたは、「周辺国の脅威」から日本を守るために、「次世代の動力(原子力)」を持つ潜水艦の保有に賛成しますか? それとも、「平和憲法の理念」と「財政の健全性」を守るために、保有に反対しますか?
この選択は、日本の防衛戦略の根本を揺るがすものです。各政党の意見と、国際情勢、そして日本の立場を深く理解し、あなたが考える日本の進むべき道を投票行動を通じて示しましょう。


コメント