大分県日出町の町長選挙で土葬墓地が大きな争点になったのはなぜか?
大分県日出町(ひじまち)では、令和6年(2024年)8月25日に投開票が行われた町長選挙で、別府ムスリム協会が開設計画を進めていた土葬墓地の是非が、最大の争点となりました。
この問題は、村井嘉浩宮城県知事が当初推進していたムスリム土葬墓地建設について、令和7年10月に行われた知事選挙時に方針を一変「今後とも許可しない」という方針に変えたことも話題になりました。
一地域の課題を超えて、日本における外国人や異文化との共生、そして国土の利用方法という、より大きな政治問題へと発展しています。
大分県日出町の町長選挙の争点と結果(令和6年8月25日)
この選挙で争点となったのは、町が所有する土地(町有地)の一部を別府ムスリム協会に売却し、そこにイスラム教徒(ムスリム)のための土葬墓地を建設することを許可するかどうかという問題でした。
建設推進派の現職は、ムスリムにとって土葬は宗教上の義務であり、多文化共生の観点からも必要だと主張し、「町民の意見を聞くことは考えていない」と述べました。一方、建設反対派は、土葬による地下水や河川の汚染、特に生活用水への影響、農業環境の保全、土地の資産価値の低下を懸念しました。
結果は、現職で3選を目指した本田博文氏(71)の4474票に対し、土葬墓地建設に反対の立場をとった安部徹也氏(56)が2倍近い8037票を得て初当選となりました。
この選挙結果は、地域の生活環境を守りたいという住民の意思が強く反映されたものとして、全国の自治体からも注目されました。
選挙の結果、土葬墓地建設は、予定地であった町有地を売却しないことを決定した
選挙の結果を受けて、日出町の新町長は、公約通り土葬墓地の建設を目的とした町有地の売却手続きを進めないことを決定しました。
これにより、別府ムスリム協会が計画していた日出町での土葬墓地の建設計画は、事実上、中止となりました(参照元:日出町公式サイト)。
この決定は住民の懸念に沿ったものでしたが、ムスリム協会やイスラム教徒からは、「宗教上の配慮が欠けている」として、改めて国や自治体への働きかけが必要であるという声が上がりました。この一件は、地方自治の民意と国際的な宗教的自由の尊重という二つの価値観の衝突を明確に示しました。
11月23日、日出町に隣接する杵築(きつき)市の自民党市議団が「日本全国で国が責任を持ち、複数の地域に土葬対応可能な墓地を確保・整備すること」などと求める異例の要望書を提出。要望活動には地元選出の岩屋毅前外相が尽力
日出町での建設中止を受け、日出町に隣接する杵築(きつき)市の自由民主党市議団は、令和7年(2025年)11月23日に、国に対して異例の要望書を提出しました。
この要望書には、「日本全国で国が責任を持ち、複数の地域に土葬対応可能な墓地を確保・整備すること」や、整備を行う自治体への財政支援、衛生ガイドラインの策定などが盛り込まれています。この要望活動には、地元選出の岩屋毅前外相が尽力したことが報じられています。
現職の国会議員や地方議員が、特定の宗教・文化的な要求に対応するための国土整備を国に求めることは異例であり、土葬墓地問題が「全国的な多文化共生のためのインフラ整備」という、国の政策レベルの課題に格上げされたことを示しています。
イスラムの土葬は、本来は先祖の眠る地で土に還るということではなかったか?
イスラム教(イスラーム)において、故人の遺体を土に埋める土葬は、原則として宗教上の義務であり、火葬は許されません。
これは、死後の復活の際に、完全な身体で神の前に立つことが求められる信仰に基づいています。ムスリムは可能な限り生まれ育った故郷や先祖が眠る地に土葬されることを望むのが本来です。しかし、現代では、仕事や留学で日本に滞在中に亡くなるケースが増えています。
日本での土葬が不可能な場合、母国へ遺体を搬送しますが、遺体の搬送には多額の費用と手続きが必要であり、大きな負担となります。そのため、日本に定住し、生涯を終えることを前提としているムスリムから、日本国内での土葬墓地の確保が強く求められるようになっています。
昔からイスラム教民は日本にいるが、土葬墓地の要求はなかった。なぜ最近この要求が多くなったのか
日本におけるイスラム教徒の人口は、戦前から存在していましたが、土葬墓地の整備がこれほど大きな政治問題となったのは、ムスリム人口の急増と「定住化」という二つの変化が背景にあります。
特にこの10年から20年間で、日本への留学生、技能実習生、特定技能労働者としてのムスリムの来日が急増しており、日本国内のムスリム人口は、令和元年(2019年)時点で23万人、令和5年(2023年)時点で約35万人と推定され、過去10年間ではほぼ倍増となっています。
昔は一時的な駐在員が多く、母国に遺体を搬送するのが一般的でしたが、近年は日本での永住権を取得するなど日本で生涯を終えることを前提とするムスリムが増え、高齢化も進んでいます。
現在、日本国内でムスリムが利用できる土葬可能な墓地は10数箇所しかなく、ほとんどが満杯に近いため、ムスリム協会は新しい土葬墓地の開設計画を各地で進めざるを得なくなり、住民との摩擦が生じるケースが増えているのです。
日本は移民を認めていないが、なぜ日本で生涯を終える前提の土葬墓地が必要なのか
日本政府は公式には「移民政策」をとっていないと説明していますが、現実には外国人労働者や高度人材の受け入れを積極的に進めており、日本に永住し、生涯を終えることを前提とする外国人は増加の一途をたどっています。
特定技能や高度専門職などの在留資格を通じて日本で働き、永住権を取得する外国人は増え続け、彼らは日本の社会経済を支える実質的な構成員です。
日本で生活基盤を築いているため、日本での埋葬場所の確保は、彼らの生活の権利の一部と見なされるようになっています。土葬墓地の問題は、単なる宗教的な要求ではなく、国際社会の一員としての日本の多文化共生への姿勢が問われる問題です。
土葬墓地の確保は、彼らが安心して日本で生活し、社会に貢献するための基本的な社会インフラの一つであるという認識が、ムスリム協会や国際的な視点を持つ人々から強く主張されています。
各政党の政策:土葬墓地の整備や外国人との共生に関する考え方
大分県での土葬墓地問題を巡る国の責任論について、各政党がどのような姿勢を取っているか、土葬墓地の建設や外国人材の宗教的ニーズへの対応という具体的な論点に特化して見ていきましょう。各党の考え方や主張は最新の各政党ホームページの政策や公約、党首の発言、ニュース記事などを参考にしています。各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。
自由民主党(保守、中道右派)
自由民主党は、経済成長のための外国人材受け入れと、国土保全のバランスを重視します。
- 国の役割と地方との連携: 土葬墓地の問題は一地域だけの課題ではないとし、国が環境衛生に関する明確な基準やガイドラインを策定し、地方自治体と連携して解決にあたるべきと考えます。
- 地域への配慮と財政支援: 地元選出の岩屋毅前外相が要望活動に尽力したように、地域の環境や住民感情への配慮は不可欠であるとし、整備を行う自治体への財政的な支援を検討すべきという姿勢が見られます。経済維持に必要な外国人材の宗教的ニーズに応えつつ、国土の保全と両立を図る解決策を模索します。
日本維新の会(保守、右派、リベラル)
日本維新の会は、地方分権と規制改革を重視しています。
- 地方分権の推進: 土葬墓地の設置可否や、それによるインフラへの影響については、地域の民意や地方自治体の自主的な判断を最大限尊重すべきと主張します。
- 国の役割の限定: 国は、環境衛生に関する最低限のガイドラインを示すことや、法的な整備を行うにとどめ、開発や費用負担の最終的な判断は、地方に委ねるべきという考え方をとる可能性があります。
国民民主党(中道、保守、リベラル)
国民民主党は、働く人の生活の質の向上と公正なルール作りを重視しています。
- 公的な環境整備の必要性: 日本で生活し、社会に貢献する外国人労働者が宗教的な自由を享受し、安心して生涯を終えられる環境を整備することは、国の責務であると主張します。
- 国による支援: 土葬による環境汚染の懸念を払拭するため、国が明確な環境基準と安全性を確保し、整備を行う地方自治体への財政的な支援を行うことで、住民と外国人材の共存を目指すべきとしています。
参政党(保守、右派)
参政党は、食料安全保障と日本の国土・文化の保全を最優先すべきという立場です。
- 国土保全の厳格化: 土葬墓地を建設するための農地転用や水源地周辺での開発に対しては、日本の環境衛生基準を厳格に適用し、安易な土地利用を規制すべきと主張します。
- 国民の理解と伝統: 日本の伝統的な埋葬文化との調和を重視し、性急な土葬墓地の全国的な整備には慎重な姿勢を示し、まずは国民の十分な理解を得ることを優先すべきと考えます。
日本保守党(保守、右派)
日本保守党は、国益と地方の民意を最大限尊重すべきという立場です。
- 地方の民意の尊重: 日出町の住民投票(町長選挙)の結果が示したように、土葬墓地による環境負荷や不安に関する地方の民意を国は無視すべきではないと強く主張します。
- 国土の管理責任: 外国人による国土の利用については、国家的な安全保障や環境保全の観点から、より厳格な規制を設けるべきとし、無秩序な開発には反対する立場です。
立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
立憲民主党は、人権の尊重と多文化共生を重視しています。
- 宗教的自由の保障: 日本で生活するムスリムが宗教的な信条に基づいた埋葬を行える環境を確保することは、基本的人権の尊重に関わる問題であり、国が責任を持つべきと主張します。
- 公的施設の整備: 環境に配慮した適切な土葬施設を国が公共的なインフラとして整備するための法的な枠組みと財政支援を推進し、共生社会の実現を目指すべきとしています。
れいわ新選組(革新、左派)
れいわ新選組は、差別と格差の解消、公共サービスの充実を重視しています。
- 格差なき公共サービスの提供: 土葬墓地を、特定の宗教の利用者を含む全ての人が利用できる公共的なサービスとして捉え、営利目的の開発に任せるのではなく、国や地方自治体が責任を持って公正かつ安全な施設として整備すべきと主張します。
- 生活基盤の確保: 外国人労働者を含む全ての住民の安心して生活できる権利を保障するため、住宅や医療、そして最期の場所に至るまでの公的な環境整備の必要性を訴えます。
公明党(中道左派、リベラル)
公明党は、地域共生と住民の不安解消を重視しています。
- 科学的根拠に基づく基準策定: 土葬による地下水汚染などの住民の不安を解消するため、国が科学的な知見に基づいた明確なガイドラインと安全基準を策定し、不安払拭に努めるべきと主張します。
- 地方への財政支援: 住民の理解促進と宗教的配慮を両立させるため、環境整備に取り組む地方自治体に対し、国の財政的な支援を充実させるべきとしています。
日本共産党(革新、左派)
日本共産党は、国土の保全と住民の権利を守ることを重視する立場です。
- 住民合意の絶対性: 土葬墓地のような地域環境に影響を与える開発については、日出町のように住民の総意や町の行政が反対している場合、国の事情を優先すべきではないと強く主張します。
- 環境規制の強化: 農地や水源地を守るため、環境アセスメント(環境影響評価)を厳格に行い、土葬による環境汚染の懸念を払拭するための国の厳格な規制強化を求めるべきとしています。
まとめ: 大分県日出町の土葬墓地問題は「国土利用と共生のルール」を誰が作るかの問いである
宮城県知事選挙や大分県日出町の町長選挙から、国政レベルにまで発展した土葬墓地の問題は、日本の国土利用のルールと異文化との共生という、二つの大きなテーマを私たちに突きつけています。
日出町の住民は、地下水の汚染や生活環境の悪化を心配し、町長選挙という民主的な手段で「土葬墓地建設中止」という意思を示しました。一方、これに隣接する杵築市議団と岩屋前外相は、「日本に暮らすムスリムの宗教的なニーズ」は一地域の問題ではなく、国が責任を持って解決すべきだとして、全国的な土葬墓地の整備を国に求めました。
これは、「地域の生活の安全」を守るべきという地方自治の主張と、「国際社会の一員としての宗教的自由の尊重」という国のあり方を巡る主張が衝突している状況です。
私たちは、この問題を単なる宗教的な対立としてではなく、国際化が進む日本で、国土の限りある資源をどう使い、多様な人々が共に安心して暮らすためのルールを誰が、どう作るのかという政治的な問いとして考える必要があります。
あなたは、この問題に対し、
- 「地域の生活と環境」を守るため、日出町の住民のように地方の民意を尊重し、土葬墓地の整備には厳格な環境規制を設けるべきと考えますか?
- 「国際的な責務と人権」を果たすため、杵築市議団のように国が責任を持ち、多文化共生のための土葬可能な墓地の整備を全国の複数地域で進めるべきと考えますか?
あなたが考える日本の進むべき道を明確にするため、この問題に対する各政党の主張を理解し、次の選挙での投票行動を通じてあなたの意思を示しましょう。


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