憲法が守る「表現の自由」と国旗への敬意
国旗はその国の象徴であり、多くの国民にとって大切なものです。しかし、日本では国旗を傷つけたり、燃やしたりしても、罪に問われることがありません。
これは「世界的に見ても珍しい」という論調で語られることが多く、「国旗損壊罪」(こっききそんざい・国旗をわざと傷つけたり燃やしたりするのを罰する法律)を制定するべきだという声が上がってきています。
では、ホントに世界的に「国旗損壊罪」がないのは珍しいのか、国旗を守る法律がないことが良いことなのか、悪いことなのかを一緒に考えてみましょう。
そもそも日の丸はGHQに禁止されたってホント?
第二次世界大戦後、日本を占領していたGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)によって、日本の国旗である日の丸や国歌の君が代が制限されていた時期がありました。
GHQは日の丸を公の場で掲げることを許可制にし、事実上、禁止に近い状態でした。この制限は終戦(1945年)から4年後の1949年(昭和24年)に解除され、その後、1999年(平成11年)にようやく「国旗及び国歌に関する法律」が成立し、日の丸が正式に日本の国旗と定められました。
外国の国旗は守るのに、自国の国旗は守らない法律
日本の刑法には、「外国国章損壊罪(がいこくこくしょうそんかいざい 刑法92条)」という法律があります。これは、外国の国旗や国章を傷つけたり汚したりした場合、2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処するというものです。
この法律は、国同士の友好関係を守るために作られたものです。しかし、この法律は日本の国旗には適用されません。つまり、外国の国旗を燃やせば罪になりますが、日本の国旗を燃やしても罪にならないのです。
国旗を傷つけるのが罪になる国とそうでない国
国旗損壊を法的に罰する国
G20に加盟している主な国を見てみましょう。まずは、自分の国の国旗への侮辱行為を法で禁じており、それぞれに明確な罰則が定められている国は以下のとおりです。
- 中国では、「中華人民共和国国旗法」違反として国旗を故意に燃やしたり汚したりする行為に3年以下の懲役または拘留が科されます。
- ドイツでは、「刑法」第90a条の国家およびその象徴に対する侮辱罪で、5年以下の懲役に処される可能性があります。
- 韓国には「刑法」第105条の国旗冒涜罪があり、国旗を侮辱目的で損壊する行為は5年以下の懲役となります。
- アルゼンチンでは、「刑法」第222条の国旗、国章、国歌に対する冒涜罪で、1年から4年の禁固刑が課される場合があります。
- フランスでは、公の場で国旗を侮辱した場合、「刑法」第433-5条の国旗または国家の象徴に対する侮辱罪で、7,500ユーロ(約120万円)以下の罰金が科されます。
- ロシアでは、「刑法」第329条の国旗への侮辱罪で、1年以下の懲役に処される可能性があります。
- メキシコでは、「国旗、国章、国歌に関する法律」の国旗の冒涜罪で、3,000ペソ(約2.5万円)以下の罰金または36時間以下の拘留が定められています。
- トルコでは、「トルコ国旗法」違反で罰金刑や禁固刑が課されます。
- インドネシアでは、「国旗、国章、国歌に関する法律」の国旗への侮辱罪で、1年以下の懲役または1億ルピア(約100万円)以下の罰金が科されます。
国旗損壊を直接罰する法律がない国
これらの国では、国旗を傷つける行為を罪としない判例や法律が確立しています。
- 日本には、自国の国旗を傷つける行為を直接罰する法律はありません。ただし、他人の所有する国旗を傷つけた場合は「器物損壊罪」が適用される可能性があります。
- アメリカでは、過去に「国旗保護法」という法律が成立したことがありますが、最高裁判所が「国旗を焼く行為は『表現の自由』として憲法で保護される」と判断したため、この法律は無効となりました。現在、国旗を侮辱する行為を直接罰する法律は存在しません。
- オーストラリア、カナダ、イギリスにも、国旗を侮辱する行為を直接罰する法律は存在しません。
アメリカやイギリス、カナダもオーストラリアも日本と同じく法律がないというのは少し驚きでしたね。各国の法律は、その国の歴史や政治体制、そして「表現の自由」をどこまで尊重するかという価値観を反映しています。
法律の壁になった「表現の自由」
日本では、国旗を傷つける行為を法律で罰することには「表現の自由」との関係で議論が起こります。
憲法第21条は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定めています。国旗を燃やす行為は、国や政府に対する抗議の意思を示す一つの表現だと考える人もいます。
もし国旗を傷つけることを禁じる法律を作ると、政府が気に入らない意見を言わせないために、この法律が悪用されるのではないかという懸念があるのです。
特に、2021年に自民党が国旗損壊罪の創設を目指した際、この「表現の自由」を巡る議論が活発に行われ、法案の成立には至りませんでした。
2021年の国旗損壊罪はなぜ成立しなかったのか
2021年に国旗損壊罪が成立しなかった主な理由は、憲法で保障された「表現の自由」を不当に侵害する可能性があるという強い懸念があったからです。
2021年当時、自民党内の保守派グループ「保守団結の会」が、刑法に「国旗損壊罪」を設けるための法案を準備していました。しかし、この動きに対して、さまざまな立場から下記のような反対意見が出され、最終的に法案の提出は見送られることになりました。
1. 「表現の自由」との対立
国旗を燃やしたり、汚したりする行為は、国や政府に対する強い抗議の意思を示す「政治的な表現」だと考える人が多くいました。もし法律でこの行為を禁止してしまうと、政府への批判的な意見を表明する手段が奪われ、憲法で定められた表現の自由が制限されるのではないかという懸念が強く指摘されました。
2. 法律の「曖昧さ」
どのような行為が「国旗を侮辱する」と見なされるのか、その基準が曖昧すぎるという問題も指摘されました。たとえば、芸術作品の中で国旗をモチーフに使う場合や、デザインとして国旗をアレンジする場合など、どこからが罪になるのかが明確ではないため、法律が悪用される危険性があると考えられました。
3. 「外国国章損壊罪」との違い
日本の刑法には、外国の国旗や国章を侮辱する行為を罰する「外国国章損壊罪」があります。しかし、これは国同士の友好関係を保つことを目的とした法律です。自国の国旗を傷つけることと、他国の国旗を傷つけることでは、保護すべき目的が異なるため、単純に自国の国旗にも同様の法律を適用するのはおかしいという意見も出されました。
これらの議論が活発に行われた結果、世論の賛否も分かれたため、自民党内でも慎重な意見が強まりました。最終的には、法案を提出しても国会で成立させるのは難しいと判断され、正式な提出は見送られることになったのです。
日本の政党の考え方
日本の主要な政党は、国旗損壊罪についてどのような考えを持っているのでしょうか。各政党の政策を見てみましょう。なお、各政党の方針については、各政党のホームページや公約、党首の発言などを参考にしています。
- 自由民主党(自民党:保守、中道右派、左傾傾向) 自民党は、自国の国旗を軽んじる行為を問題視し、国旗損壊罪の創設を主張しています。2021年には、刑法に「国旗損壊罪」を創設する法案を準備しましたが、実現には至っていません。
- 立憲民主党(革新、中道左派、リベラル) 立憲民主党は、国旗損壊罪の創設には慎重な姿勢です。表現の自由を不当に制限する可能性があるとして、国民的な議論が必要だという考えです。
- 日本維新の会(保守、右派、リベラル) 日本維新の会は、国旗損壊罪の創設に賛成しています。特に、外国の国旗は守るのに自国の国旗を守らないのはおかしいという考えから、法整備が必要だと主張しています。
- 公明党(中道、保守) 公明党は、国旗損壊罪の創設について、慎重な姿勢です。国民の間で国旗に対する理解と敬意が深まることが重要だという考えを示しています。
- 国民民主党(中道、保守、リベラル) 国民民主党は、国旗への敬意は大切だとしながらも、国旗損壊罪の創設については慎重な議論が必要だという立場です。表現の自由をどう守るかという観点から検討しています。
- 日本共産党(革新、左派) 日本共産党は、国旗損壊罪の創設に反対しています。戦前の日本のように、政府の批判ができなくなることにつながる可能性があるとして、反対の立場をとっています。
- 参政党(保守、右派) 参政党は、国旗損壊罪の創設に強く賛成しています。国旗は国の象徴であり、それを守る法律がないのは異常なことだと主張しています。
- れいわ新選組(革新、左派) れいわ新選組は、国旗損壊罪の創設に反対しています。表現の自由を最も大切にすべきであり、国家による自由な発言の制限につながる可能性を指摘しています。
- 日本保守党(保守、右派) 日本保守党は、国旗損壊罪の創設に強く賛成しています。国民の愛国心を育むためにも、国旗を大切にする意識を高める法律が必要だと考えています。
まとめ
国旗を傷つける行為を罰しない日本と、厳しく罰する世界の国々。この違いは、憲法で定められた「表現の自由」をどこまで大切にするかという、日本の考え方が反映されていると言えるでしょう。
法律で国旗を守ることは、国への敬意を強制することになるかもしれません。一方で、国旗を傷つける行為が野放しにされることで、国への誇りや連帯感が失われる可能性もあります。
あなたなら、国旗を守るための法律は必要だと思いますか?それとも、表現の自由を守るべきだと思いますか? ぜひ考えてみてください。


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