年金制度のなりたちと老後2000万円問題
年金制度はみんなで支え合う仕組みとして始まった
日本の年金制度は、国民の老後の生活を支えることを目的として、昭和36年(1961年)に「国民皆年金」として始まりました。これは、働いている世代が払ったお金で、今の高齢者を支える「賦課方式(ふかほうしき)」を基本としています。この仕組みは、世代を超えて助け合うことで、国民全員が安心して暮らせる社会をつくろうという、強い「支え合い」の精神から生まれました。
日本の年代別平均年金受給額は、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」などに基づいて算出されており、年金の種類(国民年金か厚生年金か)によって大きく異なります。
以下に、令和5年度(2023年度)の国民年金(自営業者や専業主婦など)と、厚生年金(会社員・公務員が国民年金と合わせて受給)の平均月額受給額を年代別にご案内します。
国民年金(月額)
- 60代前半(60~64歳): 約42,500円
- 60代後半(65~69歳): 約57,700円
- 70代前半(70~74歳): 約57,100円
- 70代後半(75~79歳): 約56,100円
- 80代前半(80~84歳): 約56,600円
- 80代後半(85~89歳): 約55,900円
- 90代以上: 約51,400円
厚生年金(国民年金分を含む、月額)
- 60代前半(60~64歳): 約77,300円
- 60代後半(65~69歳): 約143,600円
- 70代前半(70~74歳): 約144,400円
- 70代後半(75~79歳): 約148,300円
- 80代前半(80~84歳): 約157,500円
- 80代後半(85~89歳): 約161,500円
- 90代以上: 約160,500円
国民年金(自営、フリーランス、主婦)では生活していけない
上記の表を見て、みなさんお気づきだと思いますが、国民年金だけで生活を維持していくのは非常に厳しい現実があります。多くの調査や専門家の見解も、国民年金だけでは生活費が不足すると結論付けています。
平均年金受給額と生活費の比較
厚生労働省のデータによると、会社などに努めて社会保険料を支払っていないフリーランスや自営業、主婦は、国民年金を満額受給しても月額は約6.8万円です。これに対し、総務省の家計調査などによると、65歳以上の単身無職世帯の平均的な消費支出は約14.9万円で、夫婦世帯では約25.7万円です。
このデータからわかるように、国民年金だけでは単身世帯でも月に約8万円、夫婦世帯では20万円近くも不足する計算になります。
なぜ国民年金だけでは足りないのか
国民年金は、日本に住む20歳から60歳までのすべての人が加入する「基礎年金」です。元々は、老後の生活を支える土台として設計されたもので、これに加えて、会社員や公務員は厚生年金に加入し、年金受給額を上乗せします。
国民年金のみに加入する自営業者やフリーランス、専業主婦などは、厚生年金の上乗せがないため、年金額がどうしても少なくなります。このため、年金以外の収入源がないと、日々の生活を賄うことが困難になります。
多くの人が年金以外で収入を補っている
年金生活を送っている多くの人は、年金収入の不足分を補うために、以下のような手段を組み合わせています。
- 現役時代の貯蓄や退職金の取り崩し
- 継続的な就労(パートタイム、アルバイトなど)
- 企業年金や個人年金といった私的年金
- 株式や不動産といった資産からの収入
- 親族からの仕送りや同居
国民年金は、あくまでも生活の「基礎」であり、それだけで老後を賄えるように設計されているわけではない、というのが現状です。
多くのフリーランスや自営業者が餓死してしまうんじゃないの?
国民年金だけでは、家賃や水道光熱費だけでも赤字になってしまいますよね。このままでは多くのフリーランスや自営業者はろくにご飯も食べられず餓死してしまうのではないかと思った方も多いのではないでしょうか。
日本の年金制度は、二層制構造となっています。
第1層:国民年金
これは、自営業者、農業従事者、学生、失業者など、20歳から60歳までのすべての国民が加入しなければならない基礎年金です。社会保障の基盤として機能します。
第2層:厚生年金
これは、給与所得者や公務員が雇用主を通じて拠出する付加年金です。国民年金を補足するものであり、受給額は給与と勤続年数に比例します。
制度設計上、国民年金(第1層)のみに加入している人は基礎年金しか受給できません。これでは快適な生活を送るには不十分な場合が多いのです。これが、多くの人が老後資金を個人貯蓄、私的年金、あるいは退職後の継続就労によって補填する主な理由となっています。
格差是正のための政府の対策
政府は国民年金だけでは不十分であることを認識しており、支援策を講じていますが、その内容は必ずしも周知されているわけではありません。例えば、生活に困窮している人は、年金生活者支援給付金(年金生活者支援給付金)を申請することができます。
年金生活者支援給付金について
年金生活者支援給付金は、公的年金等の収入やその他の所得が一定基準額以下である方に対し、生活の支援を目的として年金に上乗せして支給される給付金です。2019年10月の消費税率引き上げに合わせて導入されました。
制度の目的と種類
- 目的: 所得の低い年金受給者の生活を支援すること。
- 種類:
- 老齢年金生活者支援給付金: 老齢基礎年金の受給者向け
- 障害年金生活者支援給付金: 障害基礎年金の受給者向け
- 遺族年金生活者支援給付金: 遺族基礎年金の受給者向け
支給要件(老齢年金生活者支援給付金の場合)
以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 年金受給の状況: 65歳以上で、老齢基礎年金を受給していること。
- 世帯の状況: 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること。
- 所得の状況: 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が、一定の基準額以下であること。
※基準額は年によって変動しますが、例えば令和6年度は、昭和31年4月2日以後に生まれた方は789,300円以下、昭和31年4月1日以前に生まれた方は787,700円以下が目安です。
支給される金額
給付金の金額は、個々の年金保険料の納付済期間や免除期間に応じて算出されます。
- 基準額: 概ね月額5,450円を上限とし、年額で約6.5万円が支給されます。
- 算出方法:
- 保険料納付済期間に基づく額: 月額5,450円 × 保険料納付済期間 ÷ 480月
- 保険料免除期間に基づく額: 月額11,551円 × 保険料免除期間 ÷ 480月
- この2つを合算した金額が、給付金として支給されます。
どちらにしても、生活できる額にはほど遠いですね。
請求手続き
通常、給付金の支給対象となる方には、日本年金機構から「年金生活者支援給付金請求書」が届きます。
- 手続き方法:
- 同封された請求書に必要事項を記入して返送します。
- 新たに年金を請求する際には、年金請求書と同時に給付金請求書も提出できます。
- 注意点: 支給要件を満たす場合、2年目以降の手続きは原則として不要です。ただし、所得状況等が変わった場合は支給が停止されることがあります。
※詳細な支給要件や金額は年度によって改定される可能性があるため、最新の情報は厚生労働省や日本年金機構の公式サイトで確認することをお勧めします。
それで老後に2千万円必要というワケ
この「老後2000万円問題」は、平成31年(2019年)6月に金融庁が公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」の中で示されました。この報告書では、夫婦2人世帯の高齢者が公的年金だけで生活した場合、不足するお金の目安が2000万円になると試算されました。
この試算は、「公的年金に加えて、自分で貯蓄などの資産形成を行う必要がある」という趣旨で示されたものでしたが、「政府が老後の面倒を見ない」と受け取られ、大きな議論を呼びました。しかし、この問題は、先に書いたように「公的年金だけでは生活費を賄えない」という、日本の現状を浮き彫りにしたとも言えます。
参照元:金融庁「高齢社会における資産形成・管理」報告書(平成31年6月3日)
年金制度の議論と2024年改正の論点
日本の年金制度は、少子高齢化が進み、現役世代が減り続けることで、制度の維持が難しくなってきています。このため、制度をより長く続けられるように、国会では定期的に法律の見直しが行われています。
令和6年(2024年)に成立した年金制度改正法
令和6年(2024年)に国会で成立した年金制度改正法は、今後の年金制度の安定をめざす重要な内容を含んでいます。
主なポイントは以下の通りです。
- 国民年金保険料の月額引き上げ: 令和7年度(2025年度)以降、国民年金保険料が月額で引き上げられます。これにより、将来の年金給付に必要な財源を確保しようとしています。
- 短時間労働者への厚生年金適用拡大: これまで適用されていなかった短時間で働く人たちも、厚生年金に加入できるようになります。これにより、より多くの人が老後に受け取れる年金額を増やすことが可能になります。
- パートやアルバイトの年金制度加入義務化: これまでよりも短い時間働くパートやアルバイトの人たちも、雇用期間が2か月を超える場合には、年金制度に加入することが義務付けられました。これにより、将来の年金額が増え、年金制度の財政基盤も安定することが期待されています。
これらの改正は、現役世代の負担増を伴いますが、年金制度を持続させるための重要な一歩とされています。
参照元:厚生労働省「年金制度改正法(令和6年法律第32号)の概要」(令和6年5月31日) 参照元:契約ウォッチ「【2026年4月施行】年金制度改正法によりパート・アルバイトの厚生年金加入が義務化|変更点や注意点、企業がすべき対応とは」
世界の年金制度に学ぶ
日本の年金制度は、賦課方式を基本としていますが、世界にはさまざまな年金制度があります。他の国の例を見て、日本の年金制度のあり方を考えてみましょう。
年金制度の進んだ先進国
- スウェーデン: 働いている間にもらう給料に応じて年金額が決まる「所得比例年金」が特徴です。一人ひとりが納めた年金保険料を仮想口座で管理し、少子高齢化や経済状況に応じて受け取れる年金額が自動で調整される仕組みです。
- ドイツ: 日本と同じ賦課方式ですが、年金保険料の負担は働く人と会社が半分ずつで、自営業者や専業主婦も強制加入することが特徴です。これにより、社会全体で年金を支える体制を構築しています。
- アメリカ: 複数の年金制度を組み合わせた「三層構造」が特徴です。公的年金に加えて、確定拠出年金(401k)などの企業年金や、個人年金が充実しており、個人の自助努力を重視しています。
- イギリス: 基礎年金と、所得に応じて上乗せされる年金の「二階建て」構造です。また、企業年金や個人年金も広く普及しており、高齢者の生活を多角的に支えています。
- フランス: 日本と同じ賦課方式が基本ですが、年金の受給開始年齢は日本より若く、かつては60歳から年金を受け取ることができました。近年は財政難から受給開始年齢の引き上げが行われています。
成長中の途上国の年金制度
- 中国: 都市部と農村部で年金制度が分かれています。近年は、都市部の年金制度を拡大し、より多くの国民が年金を受け取れるように改革を進めています。
- インド: 貧困層が多く、公的年金制度の恩恵を受けられない人が多いため、政府が低所得者向けに小規模な年金制度を導入しています。
- ブラジル: 年金制度が手厚い一方、財政を圧迫する要因にもなっていました。近年は、年金受給開始年齢の引き上げや、保険料の引き上げなど、制度の持続性を高めるための改革が進められています。
- インドネシア: 複数の年金制度が乱立しており、制度の統一が課題となっています。政府は、すべての国民が年金に加入できるような「国民社会保障システム」の構築を進めています。
- メキシコ: 賦課方式から積み立て方式への移行を進めています。個人の積み立てを基本とすることで、将来の財政負担を減らすことを目指しています。
各政党の政策
年金制度は、私たちの老後の生活に直結する重要な問題です。各党の考え方や主張は最新の各政党ホームページの政策や公約、党首の発言、ニュース記事などを参考にしています。各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。
自由民主党(自民党:保守、中道右派、左傾傾向)
- 全世代型社会保障制度の構築を掲げ、若者から高齢者まで、社会全体で支え合う仕組みをめざしています。
- 公的年金制度の持続可能性を確保するため、給付と負担のバランスを見直すことを主張しています。
- 令和6年(2024年)の年金制度改正を主導し、短時間労働者への厚生年金適用拡大などを実現しました。
立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
- 年金受給額の「最低保証年金」の導入を掲げ、低年金で生活に困窮する人をなくすことをめざしています。
- 国民年金だけで生活する人たちの給付を充実させ、老後の不安を解消することを主張しています。
- 消費税の増税に頼らず、年金制度を維持するための財源を確保することを検討しています。
日本維新の会(保守、右派、リベラル)
- 年金制度の「抜本改革」を掲げ、世代間の不公平をなくすことをめざしています。
- 将来的に年金制度を賦課方式から、積立方式へと移行することを主張しています。
- 国民年金と厚生年金の制度を一つに統合するなど、年金制度の簡素化を提言しています。
公明党(中道、保守)
- 低年金者への給付を充実させ、高齢者の生活不安を解消することをめざしています。
- 出産や育児期間中の年金保険料を免除する期間を拡大し、子育て世代への支援を強化することを主張しています。
- 2040年以降の人口減少を見据え、年金制度の持続可能性を高めるための議論を積極的に行う姿勢を示しています。
国民民主党(中道、保守、リベラル)
- 貧困対策として、年金だけでは生活できない人に対して、給付付き税額控除を導入することを検討しています。
- ベーシック・インカムの導入にも言及しており、すべての国民に最低限の生活を保障する社会をめざしています。
- 賃金の上昇を通じて、年金保険料を支払う現役世代の負担感を軽減することを主張しています。
日本共産党(革新、左派)
- 「最低保障年金」の創設を掲げ、誰もが人間らしく暮らせるだけの年金を保障することを主張しています。
- 民主的な経済改革により、年金財政を安定させ、年金の削減を中止することをめざしています。
- 企業の内部留保への課税や、富裕層への課税強化で、年金財源を確保することを提言しています。
参政党(保守、右派)
- 賦課方式から積立方式への移行を検討するなど、年金制度の根本的な改革を主張しています。
- 投資教育などを通じて、国民一人ひとりが老後に向けた資産形成を行うための支援を掲げています。
れいわ新選組(革新、左派)
- 消費税を廃止することで、国民の生活費を下げ、年金だけでは生活できない人々の負担を軽減することを主張しています。
- 経済的困窮をなくすために、ベーシック・インカムの導入を掲げています。
日本保守党(保守、右派)
- 年金制度の維持のため、将来的な給付水準の確保や、積立金運用の見直しなどを主張しています。
- 夫婦や家族で支え合うことを年金の基本理念としながら、国もその努力を支援する姿勢を示しています。
まとめ: 将来の安心のために、私たちはどう行動すべきか
年金制度は、私たち一人ひとりの老後の生活を支えるための、とても大切な仕組みです。しかし、少子高齢化によって、その維持が難しくなり、老後2000万円問題のような不安が生まれています。
この不安を解消するためには、私たちの自助努力だけでなく、政治の力で、年金制度を持続可能なものに変えていくことが不可欠です。
各政党は、それぞれ異なる考え方で年金問題に向き合っています。年金を国が責任を持って保障すべきだと考える政党もあれば、個人の自助努力を促すべきだと考える政党もあります。
あなたは、どのような老後を送りたいですか?そのために、どのような年金制度が必要だと思いますか?それを実現できるのは、どの政党の考え方だと思いますか?あなたの老後像と、各政党の政策を比べてみることが、未来を選ぶ第一歩になります。


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