隠された日本の実質的な移民政策は進んでいるのか?
2025年9月25日、国際協力機構(JICA)が計画していた「アフリカ・ビジネス共創ホームタウン構想」を撤回しました。政府やJICAは「移民政策ではない」と繰り返していますが、2028年(令和10年)までに最大80万4,000人の外国人材を受け入れる計画が進んでおり、これが実質的な移民政策ではないかという議論は続いています。この問題は、日本の未来を決める大きなテーマの一つです。
概略:JICAアフリカホームタウン構想の全体撤回
今回の撤回は、構想全体にわたるものです。
- 誤情報の拡散: 構想が「移民受け入れ」を目的としたものだという誤った情報がSNSなどを通じて広がり、関係自治体に抗議が殺到したためだという説明でした。
- 自治体への負担: この事態を受けて、JICAは関係者との協議を経て、すべての認定自治体との連携を撤回しました。
認定されていた自治体
JICAが8月に「ホームタウン」に認定していたのは、以下の4つの自治体とアフリカの国々の組み合わせです。
愛媛県今治市:モザンビーク
山形県長井市:タンザニア
千葉県木更津市:ナイジェリア
新潟県三条市:ガーナ
撤回の経緯
この構想が報道されると、インターネット上や一部の政治家から、「これは事実上の移民政策につながるのではないか」「特定国籍の人々だけを優遇するのはおかしい」といった強い批判が起こりました。
JICAは、この計画はあくまでビジネス支援を目的としたものであり、移民政策ではないと説明しましたが、世論の誤解を招くことを避けるため、2023年(令和5年)頃に計画の撤回を発表しました。この撤回は、日本社会が「移民」という言葉に対して持つ敏感さを浮き彫りにしました。
しかし、2025年1月にJICAが出した競争入札の告知に、「アフリカ地域(広域)日本の地方部との連携によるアフリカ人材受入・育成のための情報収集・確認調査」というものがあり、アフリカ人材(労働人材の)受入・育成という文言が書かれています。
JICA「アフリカ地域(広域)日本の地方部との連携によるアフリカ人材受入・育成のための情報収集・確認調査」8ページ

後述する技能実習生、特定技能1号、特定技能2号への移行といった手段、または「難民申請」というかたちでの10年以上の滞在(技能実習生から特定技能1号へ移行)や、永住(特定2号・経営管理ビザ)という資格で日本に滞在または家族帯同で永住できる制度がある以上、実質的な移民政策であるという理論も矛盾のあるものではありせん。
JICA「アフリカ地域(広域)日本の地方部との連携によるアフリカ人材受入・育成のための情報収集・確認調査」全文
JICAのアフリカとの交流事業は続く
JICAは、ホームタウン構想が撤回された後も、アフリカとの交流事業自体は継続しています。主な活動は、技術協力、政府開発援助(ODA)、そしてTICAD(アフリカ開発会議)を通じた人材育成や経済協力です。これは、アフリカの経済成長を支援し、日本との友好関係を築くことを目的とした外交政策の一環です。
【映像】ホームタウン事業撤回の記者会見
撤回の会見では「ビジネス支援」という言葉はなく、「楽しい交流」を目的としているとしています。
前述の「アフリカ地域(広域)日本の地方部との連携によるアフリカ人材受入・育成のための情報収集・確認調査」では、タイトルはもちろん、「若年層の日本での就業可能性検討や日本の地方との持続的な交流・人材育成に係る持続的な連携可能性の検討を行う。なお、JICA は 2019 年度以降の年度経営戦略において「外国人材受入・多文化共生への貢献」を掲げ、開発途上地域と日本との人材還流促進や、日本国内における外国人材の適正な受入れ及び地域における多文化共生社会構築支援に取り組んでいる。」としており、「楽しい交流」とは意味が違うと言わざるを得ません。
特定技能制度の拡大と、止まらない移民への道
JICAの計画が撤回された一方で、日本の人手不足は深刻化しており、国が主導する外国人労働者の受け入れは急速に拡大しています。政府は、2028年(令和10年)までの5年間で、特定技能制度を通じて最大80万4,000人の外国人材を受け入れる計画を立てています。
技能実習の年度別人数
技能実習制度は、国際貢献を目的としていますが、実質的な労働力として機能してきました。
技能実習の年度別人数(12月末時点)
技能実習制度は、国際貢献を目的としていますが、実質的な労働力として機能してきました。受入人数は年々増加しており、2024年度では41万3千人にのぼり、2021年度と比べて約1.4倍となっています。
政府は技能実習制度を廃止し、2027年頃までに「育成就労制度」への移行を決定しました。「国際貢献」から「人材確保と人材育成」に目的が変更され、一定の条件を満たせば、同一分野内での転職が認められるようになります。また、原則3年間(現行5年)の育成期間が設けられ、その後は特定技能制度への移行(最長5年)が可能になります。技能実習から特定技能制度へ移行することで、事実上の長期定住への道となっています。
つまり、技能実習制度で5年(改正後3年)、特定技能1号で5年、さらに特定技能2号に移行すると家族帯同も含めて永住できることになっています。
| 時点(暦年) | 人数(12月末時点) |
| 2024年(令和6年) | 413,158人 |
| 2023年(令和5年) | 404,556人 |
| 2022年(令和4年) | 343,254人 |
| 2021年(令和3年) | 297,789人 |
| 合計 | 1,458,756人 |
特定技能1号の年度別人数と移行
特定技能1号は、人手不足を補うために創設された在留資格です。技能実習から特定技能への移行は、事実上の長期定住への道となっています。先述のとおり技能実習で5年、特定技能で5年の合わせて10年滞在できるかたちです。
技能実習から移行する人数は約30%となっています。
| 時点(暦年) | 特定技能1号 人数(12月末時点) | 技能実習からの移行人数(累計) | 移行率(対特定技能総数) |
| 2024年(令和6年) | 279,436人 | 79,520人 | 28.4% |
| 2023年(令和5年) | 206,851人 | 59,754人 | 28.9% |
| 2022年(令和4年) | 130,944人 | 45,394人 | 34.7% |
| 2021年(令和3年) | 49,602人 | 17,508人 | 35.3% |
特定技能2号の年度別人数と移行
特定技能2号は、熟練した技能を持つ外国人が対象で、家族の帯同や在留期間の上限が撤廃されるため、永住につながる実質的な「移民」の入り口とされています。
人数的にはさほど大きくない件数だということがわかります。
| 時点(暦年) | 人数(12月末時点) | 1号からの移行人数(累計) | 移行率(対特定技能2号総数) |
| 2024年(令和6年) | 45人 | 43人 | 95.6% |
| 2023年(令和5年) | 32人 | 30人 | 93.8% |
| 2022年(令和4年) | 11人 | 11人 | 100% |
| 2021年(令和3年) | 0人 | 0人 | 0% |
深刻な問題:外国人労働者の失踪と人権
技能実習制度や特定技能制度で働いていた外国人が、失踪してしまう事例がかなり多く報告されています。背景には人権侵害や劣悪な労働環境といった問題が取り沙汰されていますが、失踪や難民申請の増加は、住民の不安を増大させています。
技能実習、特定技能1号、特定技能2号での国別失踪人数と所在不明人数
現時点で2024年以降のデータは発表されていないため、2023年までのものを示します。特定技能の失踪者数は技能実習に比べ低いですが、制度の運用年数が浅いため、今後の増加が懸念されています。
| 在留資格 | 国籍(失踪者数の多い順) | 失踪者数(2023年) | うち所在不明人数(2023年) |
| 技能実習 | ベトナム | 5,380人 | 4,851人 |
| 中国 | 1,332人 | 1,099人 | |
| インドネシア | 723人 | 634人 | |
| 特定技能 | ベトナム | 47人 | 32人 |
| 中国 | 21人 | 16人 | |
| フィリピン | 11人 | 9人 | |
| 合計 | 9,052人 | 7,882人 |
各種ビザ別での難民申請数
少し視点を変えて、各種ビザ別での難民申請数を年度別に見ていきます。
難民申請をする外国人の在留資格は多岐にわたりますが、特に技能実習生の申請が増加傾向にあります。
年度別 各種ビザ別での難民申請数
各種のビザ別で難民申請の数を見ると、短期滞在(旅行等)のビザで入国して難民申請を行う外国人が、急激に増えていることがわかります。それぞれ2年前(2021年)と比べても3倍から4倍に増えています。
一度難民申請をすると、平均でほぼ1年かかる審査期間中は「仮釈放」で日本国内に滞在できます。また、一旦申請が認められない場合には二次審査を申請することで、さらに1年程度の審査と「仮釈放」が継続されます。2025年の入管法の改正で3回目以降の申請は原則として認められず強制送還となりますが、まだ穴があることは否めません。
| 申請時の在留資格(上位4種) | 2023年(令和5年) | 2022年(令和4年) | 2021年(令和3年) |
| 短期滞在 | 12,476人 (65.7%) | 7,299人 (49.5%) | 3,322人 (42.5%) |
| 技能実習 | 3,059人 (16.1%) | 1,947人 (13.2%) | 1,071人 (13.7%) |
| 特定活動 | 1,118人 (5.9%) | 722人 (4.9%) | 412人 (5.3%) |
| 留学 | 986人 (5.2%) | 591人 (4.0%) | 308人 (3.9%) |
| 合計(全資格) | 19,002人 (100%) | 14,737人 (100%) | 7,820人 (100%) |
難民認定申請数(国籍別・年度別)
2023年(令和5年)の難民申請者数は、前年から大きく増加し、19,002人となりました。
難民申請の多い国籍は年度によって変動していますが、近年はスリランカ、トルコ、カンボジアからの申請が目立っています。
| 国籍(申請者数の多い順) | 2023年(令和5年) | 2022年(令和4年) | 2021年(令和3年) |
| スリランカ | 3,770人 | 1,691人 | 549人 |
| トルコ | 3,115人 | 2,752人 | 1,532人 |
| カンボジア | 2,829人 | 1,777人 | 973人 |
| パキスタン | 1,170人 | 1,114人 | 1,180人 |
| ミャンマー | 1,029人 | 1,002人 | 845人 |
| インド | 957人 | 910人 | 315人 |
| フィリピン | 722人 | 407人 | 291人 |
| その他 | 5,410人 | 6,084人 | 2,135人 |
| 合計(全体) | 19,002人 | 14,737人 | 7,820人 |
難民申請の理由は、公式な統計では詳細に公表されていませんが、国際的な人権団体や報道機関の報告に基づき、申請者数の多い国々の主な背景を簡潔にまとめます。
| 国籍 | 主な難民申請の理由(背景) |
| スリランカ | 少数民族(タミル人など)への迫害や差別、内戦後の不安定な治安状況。 |
| トルコ | 政治的な弾圧。2016年のクーデター未遂後の政府による取り締まりや、特定の政治・宗教団体関係者への迫害。 |
| カンボジア | 政治的な反対派や人権活動家への弾圧。劣悪な労働環境から逃れるための技能実習生からの申請も多い。 |
| パキスタン | 宗教的少数派(アーマディー教徒など)に対する迫害や、政治的暴力、テロ活動による脅威。 |
| ミャンマー | 2021年(令和3年)の国軍によるクーデター後の、軍事政権による市民への迫害や、民主化活動家への弾圧。 |
| インド | カースト制度に基づく差別、宗教的少数派への暴力や人権侵害、社会的な不安定さ。 |
| フィリピン | 政治的な反対派やジャーナリスト、人権活動家への脅迫・迫害。一部、地方の紛争や汚職問題。 |
これらの理由は、難民の要件である「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見」を理由とする迫害の恐れがあることを示すものです。
補足1:トルコ(クルド人)の難民申請の背景
クルド人は、実質的には出入国在留管理庁(入管庁)の調査で、トルコの特定の地域(いわゆる「出稼ぎ村」)から、日本での高収入を目的として集団で来日しているクルド人が大勢いることが判明したと報じられています。
実際の資料(PDF) 資料1 資料2 資料3 資料4 資料5 資料6 資料7
クルド人の主な難民申請理由
日本に難民申請をしているクルド人が、難民条約上の「迫害を受けるおそれ」を証明するために主張する主な理由(背景)は、公的な統計としては出ていませんが、裁判所の判例や人権団体の報告から、以下の3つが多く挙げられます。
- 不当なテロ容疑による逮捕や訴追の恐れ トルコ政府は、クルド人の武装組織であるPKKへの弾圧を継続しています。難民申請をするクルド人の多くは、PKKとは関係がなくても、クルド系の政治活動に参加したり、クルド人の権利を主張したりしただけで、政府からPKKの協力者(テロリスト)だと不当に疑われ、逮捕・訴追、あるいは拷問などの身体的な危害を受ける危険性があると主張しています。
- 公的書類(パスポートなど)の発給拒否 トルコ国内で、クルド人の権利擁護活動などに関わった人々に対して、トルコ当局が旅券(パスポート)や身分証明書の発給を故意に拒否するケースが報告されています。これにより、海外への移動や、国内での就職・教育といった基本的な生活の自由が奪われ、人権が侵害されていると訴えています。
- 治安機関による日常的な監視や暴力 トルコの治安機関から、理由なく自宅や職場を監視されたり、頻繁な尋問や嫌がらせを受けたりした経験を理由に挙げる申請者も多くいます。これは、生命や自由が常に脅かされる精神的な迫害にあたり、安心してトルコに住み続けることができない状況を示しています。
これらの主張は、難民条約が定める「政治的意見」や「特定の社会的集団の構成員」であることを理由とした迫害に該当するとして、日本での保護を求めています。
補足2:ミャンマーの申請者とロヒンギャの人々
ミャンマーからの難民申請者には、長年迫害を受けているロヒンギャの人々も多く含まれていますが、申請者のすべてがロヒンギャ難民ではありません。
- ロヒンギャの人々: イスラム教徒であるロヒンギャの人々は、ミャンマーのラカイン州で長年にわたり、国籍を否定され、深刻な人権侵害と迫害を受けてきました。この迫害を逃れて難民申請を行うケースは以前から続いています。
- クーデター後の増加: 2021年(令和3年)にミャンマー国軍がクーデターを起こして以降は、状況が大きく変化しました。クーデターに反対する民主化活動家や、国軍の支配・弾圧を逃れる一般の市民(ロヒンギャ以外の民族を含む)からの難民申請が急増しています。
したがって、ミャンマーの難民申請者は、クーデター後の政治的迫害を逃れてきた多様な市民と、長年の迫害から逃れてきたロヒンギャの人々の、両方が含まれていると理解するのが適切です。
各政党の政策
各党の考え方や主張は最新の各政党ホームページの政策や公約、党首の発言、ニュース記事などを参考にしています。各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。
- 自由民主党(自民党:保守、中道右派、左傾傾向) 自民党は、人手不足を解消するため、外国人材の受け入れは不可欠だと推進しています。技能実習制度に代わる「育成就労制度」の創設を主導しており、外国人が長期的に日本で働き、特定技能2号を通じて永住に道を開くことで、実質的な移民政策を容認する姿勢を見せています。ただし、治安や社会保障への影響を考慮し、審査の厳格化も掲げています。
- 立憲民主党(革新、中道左派、リベラル) 立憲民主党は、外国人労働者の人権保護と共生社会の実現を最優先にすべきだと主張しています。技能実習制度における人権侵害や低賃金の問題を厳しく批判し、労働基準を守るための徹底した監督と、難民申請者に対する公正な審査を求めています。
- 日本維新の会(保守、右派、リベラル) 日本維新の会は、日本の国益を最大化する形で外国人材を受け入れるべきだと主張しています。特定の分野に限定した受け入れや、高度な技術を持つ専門人材を優先的に誘致する方針です。治安維持の観点から、安易な受け入れには反対し、厳格な審査を求めます。
- 公明党(中道、保守) 公明党は、外国人材の受け入れを進めつつ、「多文化共生社会」の実現を両立すべきだと主張しています。外国人労働者の生活支援や日本語教育の機会を増やし、地域社会に溶け込めるようサポートする政策を推進しています。
- 国民民主党(中道、保守、リベラル) 国民民主党は、外国人労働者の増加が日本人労働者の賃金水準を下げることにつながらないよう、ルール作りを重視しています。外国人労働者を安価な労働力として利用することに反対し、日本の賃金水準に合わせた雇用を義務付けるべきだと訴えています。
- 日本共産党(革新、左派) 日本共産党は、技能実習制度を「現代の奴隷制度」だと強く批判し、即時廃止を求めています。外国人労働者も日本人労働者と同じ人権、賃金、労働条件が保障されるべきだと主張し、労働者の権利保護を最優先の課題としています。
- 参政党(保守、右派) 参政党は、外国人労働者の受け入れには、日本の文化や社会秩序が維持されることを最優先に、極めて慎重になるべきだと主張しています。無制限な受け入れによる社会的な摩擦や治安の悪化を懸念し、厳格な入国管理と審査を求めます。
- れいわ新選組(革新、左派) れいわ新選組は、外国人労働者が置かれている劣悪な労働環境を問題視し、差別や搾取の根絶を訴えています。外国人労働者も日本で暮らす一員として、差別されることなく、人間らしい生活ができるよう、社会保障や人権の保障を訴えています。
- 日本保守党(保守、右派) 日本保守党は、日本の国益と治安を最優先すべきであり、安易な外国人労働者の受け入れには反対の立場をとっています。国境管理を厳格にし、日本の文化と伝統を守るため、移民政策を否定する主張を掲げています。
まとめ:JICA撤回後も続く外国人材受け入れの未来と選択
JICAのアフリカホームタウン構想が世論の反発を受けて撤回された一方で、政府は日本の人手不足は待ったなしの状況であるとして、特定技能制度を通じて最大80万4,000人という過去に例を見ない規模の外国人材受け入れを計画しています。
技能実習制度の失踪者や難民申請者の増加は、日本が外国人労働者を単なる「労働力」として見ている限り、人権問題が解決しないことを示しています。また、永住に道を開く特定技能2号の拡大は、政府が移民ではないと否定しながらも、実質的に日本社会を多文化共生社会へと導く大きな転換点となっています。
私たちは、この大きな流れをどのように捉えるべきでしょうか。あなたは、日本の経済を支えるために外国人材の受け入れをどの程度まで進めるべきだと思いますか?また、その際に、人権や社会の安定をどのように守るべきでしょうか?この問題は、私たち自身が日本の未来をどうデザインするかを問う、重要な選択です。


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