言論の自由と巨大SNSへの政府介入について
私たちは、X(旧Twitter)やYouTubeといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を通じて、世界中の人々と瞬時につながり、自由に意見を発表できる時代に生きています。日本国憲法でも「言論の自由」は、民主主義社会の土台として最も大切な権利の一つとして保障されています。
しかし、SNSが人々の情報源の中心となった今、「どの情報を残し、どの情報を消すか」という判断が、政府や巨大企業(SNS運営会社)の手に握られるようになりました。ここに、「言論統制」や「言論弾圧」といった問題の種が生まれます。
特に、「政府機関」や「警察」などの公的な機関が、SNSの運営会社に対し、「この投稿は違法だから削除してほしい」と正式に要求することを「政府機関からの法的要請(削除要請)」と呼びます。この法的要請の件数が特定の国で突出して多い場合、それは政府がSNS上の情報に対して強い介入を行っている証拠と見なされ、国民の表現の自由を脅かしているのではないかという国際的な懸念が生じるのです。
Xの削除要請件数から見える日本の言論弾圧
Xの削除依頼は世界中で日本がダントツ
SNSであるX(旧Twitter)が定期的に公表している「透明性レポート(Transparency Report)」は、世界中の政府機関からXに対して削除を求められた件数を示す貴重なデータです。このレポートの令和6年(2024年)に最も広く議論されたデータを見ると、日本からの法的な削除請求が、全世界で群を抜いて最も多い状況が続いていることがわかります。
具体的な数値で見ると、全世界で寄せられたコンテンツ削除の法的要請は、過去10年で最大となる4万7,572件でした。その中で、日本から寄せられた削除請求は2万3,555件にのぼり、全世界の削除請求のほぼ半数(約50%)を日本一国が占めていました。2番目に要請が多かったロシアが約17%であることを考えると、日本の要請件数は異常なほど突出していることがわかります。この事実は、日本が「削除請求で、世界トップの要請国」であることを示しており、日本の政府機関がSNS上の情報流通に対して極めて積極的に介入している実態を浮き彫りにしています。
イーロン・マスク氏の見解
Xのオーナーであるイーロン・マスク氏は、Xの買収理由として「言論の自由を徹底するため」を掲げていました。彼は、特定の政治的検閲によってアカウントが不当に凍結されることに強く反対する立場を取っています。
マスク氏の考えは、たとえ「嫌いな人間が、気に入らないことを言う」内容であっても、それが合法である限りは表現の自由として保障されるべきだという、リベラルな言論の自由の概念に基づいています。
しかし、X社が公表する透明性レポートでは、日本からの削除要請がダントツで、しかもX社がその要請に高い割合で応じているという実態があります。これは、マスク氏の掲げる「言論の自由」の理想と、各国の法律や文化への対応という現実との間で、X社が非常に難しい対応を迫られている状況を示しています。
マスク氏が理想とする「自由な言論空間」が、日本における膨大な法的要請によって制限を受けているのではないかという議論も生まれています。
YouTube(Google)の状況
Xだけでなく、動画プラットフォームであるYouTube(Google)に関しても、政府機関からのコンテンツ削除要請が日本から多く出されている傾向が見られます。
Googleが公表する「透明性レポート」によると、コンテンツ削除の要請件数で、日本は他国と比較して常に上位に位置しています。Xほど突出した「世界全体の半数を占める」というデータは見られませんが、日本政府機関による削除要請の傾向が、Xだけでなく広範なSNSやプラットフォームに及んでいることがわかります。GoogleもXと同様に、要請が「現地の法律」に違反しているか、「Googleの利用ポリシー」に違反しているかを審査したうえで、対応するか否かを決定しています。このデータは、日本の政府機関がSNSという新しいメディアにおける情報統制に極めて熱心であることを示唆しています。
参照元:Google 透明性レポート(政府からのコンテンツの削除リクエストに関するデータ、最新版)
これらの件数は、政府機関からの法的要請の件数である
Xの透明性レポートで公表される件数は、一般のユーザーが個人的に通報した件数とは異なり、すべて「政府機関からの法的要請(Legal Demands from Government Entities)」の件数です。
「法的要請」とは、具体的には、日本の裁判所からの削除命令や、警察、法務省、総務省などの公的機関が、日本の法律(名誉毀損罪、著作権法違反など)に基づき、X社に対して提出する正式な文書や命令を指します。
これらの要請の多さは、日本の公的機関が個人のインターネット上の発言や表現に対して、非常に積極的に法的手段を用いて介入していることを意味します。この「法的要請」が頻繁に出されることで、「政府の意向に沿わない情報が、合法的な手続きによって次々と消されているのではないか」という懸念が、言論統制の議論の中心となっています。
X側は、政府機関からの法的要請に「ほぼすべて応じている」
日本からの削除要請件数が突出して多いだけでなく、X社がその要請に対して高い割合で応じているという点も、日本の言論空間の特徴を示しています。
X社が公表したデータによると、日本の政府機関からの要請に対するX社の「何らかの措置(削除、情報の非公開、アクセス制限など)を取った割合」は、他の多くの国と比べて非常に高い水準にあることが示されています。
X社がこれほど高い割合で応じる理由としては、日本の法的手続きが非常に厳格であり、裁判所や公的機関からの命令には国際企業としても従わざるを得ないと判断している可能性が高いです。
また、日本の法律(特に名誉毀損やプライバシー侵害)は、他の国に比べて権利侵害が認められやすいため、「法的に違法性が高い」と判断されやすい内容の要請が多いことも理由と考えられます。この状況は、日本の政府機関の意向が、SNS上の言論空間に非常に強く反映されやすいことを意味しています。
削除要請の主な内容と件数
X社が公表するレポートでは、日本からの削除要請がどのような法的根拠や理由に基づいているかについても公開されています。最も件数が多いのは「名誉毀損・プライバシー侵害」および「著作権侵害」に関する要請です。
| 削除要請の主な法的根拠(日本からの要請) | 該当する法的要請の件数(2022年下半期) | 主な内容と目的 |
| 知的財産権(著作権、商標権など) | 12,500件以上(全体の過半数) | 許可なく漫画、アニメ、映画の画像などを無断使用している投稿の削除 |
| 名誉毀損・プライバシー侵害 | 10,000件程度 | 特定の個人や企業の評判を落とす虚偽の投稿、私的な個人情報(住所、電話番号など)を無許可で公開する投稿の削除 |
| その他の違法行為 | 1,000件程度 | 違法な薬物取引、児童ポルノ、違法な勧誘、犯罪予告など、刑罰法令に触れる行為に関連する投稿の削除 |
(注:X社は具体的な件数や割合を定期的に更新していますが、最新の令和7年(2025年)10月時点のリアルタイムの件数は変動が激しいため、トピックと傾向を記載しています。)
X社によると、日本からの請求の多くは、金融犯罪、麻薬、売春の禁止といった法律に関するものが96%を占めるという過去のデータもあります。しかし、名誉毀損やプライバシー侵害は、公的な人物への批判や社会的な告発にも適用される可能性があるため、これらの法的手段が「政府に都合の悪い意見」を排除する目的で使われていないかどうかが、大きな論点となっています。
参照元:Twitter Japanの過去のコメント、Business Insider Japan
日本からの削除要請が多い理由
日本からの削除要請件数が世界で突出して多い理由については、主に以下の3つの要因が複合的に影響していると指摘されています。
- 裁判所命令の出しやすさ: 日本の司法制度では、「発信者情報開示請求」や「削除の仮処分」といった手続きが、比較的迅速に行われる傾向があります。特に、裁判所からの削除命令は、X社のような国際企業にとっても無視できない法的拘束力を持つため、要請件数が増加しやすい構造があります。
- 公的な通報窓口の存在: 日本の警察庁が設立・運営を委託しているIHC(インターネット・ホットラインセンター)は、インターネット上の違法・有害情報の通報窓口として機能しています。この公的なルートが確立していることで、警察などの公的機関が通報を精査し、X社に対して正式な削除要請を行うという流れがスムーズになっており、件数の増加につながっています。
- 権利保護意識の強さ: 日本の社会では、企業や個人の名誉やプライバシーを守る意識が非常に強く、法的手段を使ってでも権利侵害に対応するという文化が根付いています。この意識が、政府機関による違法情報の一掃という動きと結びつき、要請件数を押し上げていると考えられます。
日本からの削除要請件数が突出していることは、「言論統制」「言論弾圧」ではないか
日本からの削除要請件数が突出している事実は、「言論統制」や「言論弾圧」ではないかという強い批判を生んでいます。
「言論統制」とは、政府が国民の意見や表現活動を不当に制限することを指します。日本の政府機関はあくまで「違法な情報」や「権利侵害」を理由に削除を求めていると主張していますが、問題は、その膨大な件数がもたらす「副作用」です。
あまりにも多くの削除要請が行われると、「政府への批判的な意見」や、「社会的な不都合な真実」に関する情報までが、「名誉毀損にあたるのではないか」という曖昧な理由で削除される可能性が高まります。その結果、国民が「この投稿をしたら問題になるかもしれない」と恐れ、自主的に批判的な投稿を控えるようになる状態(「萎縮(いしゅく)効果」)が生まれます。
この「萎縮効果」こそが、民主主義における見えない「言論統制」ではないか、というのが、この問題の核心的な論点です。言論統制は、必ずしも銃や暴力で行われるわけではなく、合法的な手続きを多用することによっても実現してしまう、という警告なのです。
情プラ法によるさらなる言論統制が始まる
「情プラ法」とは、2025年4月1日に施行された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」の通称です。従来のプロバイダ責任制限法を改正して名称変更したもので、SNS上の誹謗中傷や権利侵害に対し、大規模プラットフォーム事業者に迅速かつ透明性のある対応を義務付けることが目的です。
法律の背景
近年、インターネット上の誹謗中傷が深刻な社会問題となっています。これまでのプロバイダ責任制限法では、被害者が投稿の削除や発信者情報の開示を求める手続きが複雑で時間がかかり、被害回復が遅れることが課題でした。そこで、大規模なプラットフォーマーに対し、より迅速な対応と運用の透明化を求めるために、「情プラ法」が制定されました。
主な改正内容
大規模プラットフォーム事業者に課される主な義務は以下の通りです。
- 迅速な対応の義務化
- 窓口の整備と公表: 権利侵害に関する削除申し出を受け付ける窓口を整備し、公表することが求められます。
- 7日以内の通知: 投稿の削除申し出があった場合、原則として7日以内に対応を通知することが義務付けられます。
- 体制整備: 削除申し出に対応するための十分な知識と経験を持つ専門員を選任するなど、体制を整備することが求められます。
- 第三者からの申出: 被害者本人だけでなく、第三者からの権利侵害情報の削除申し出にも、一定の条件下で対応することが期待されます。
- 運用の透明化
- 削除基準の策定と公表: どのような投稿を削除するかの基準を具体的に策定し、公表することが義務付けられます。
- 運用状況の公表: 権利侵害への対処状況について、年1回以上の報告を公表することが求められます。
- 発信者への通知: 投稿を削除した場合は、その旨を発信者に通知することが義務付けられます。
対象となる事業者
総務省は2025年4月30日、以下の5社の主要サービスを「大規模特定電気通信役務提供者」として指定しました。
- Google(Youtubeなど)
- LINEヤフー
- Meta(Facebookなど)
- TikTok
- X (旧Twitter)
利用者への影響
- 被害回復の迅速化: 誹謗中傷など権利侵害の被害者は、大規模プラットフォーム事業者への削除申し出が、より早く、わかりやすくできるようになります。
- 運用ルールの明確化: プラットフォーム事業者の削除基準が明確になることで、利用者はサービスを安心して利用できるようになります。
- プラットフォーマーの対応: プラットフォーム事業者にとっては、対応体制の整備や基準の明確化といった負担が増加します。
違反した場合の罰則
この法律に違反した場合、最大で1億円の罰金が科される可能性があります。
「情プラ法」は、インターネット上の表現の自由と被害者の権利保護のバランスをどう保つかという重要な課題に対する、日本の新たな取り組みとして注目されています。
各政党の政策:SNSと表現の自由、政府介入に関する考え方
各党の考え方や主張は最新の各政党ホームページの政策や公約、党首の発言、ニュース記事などを参考にしています。各政党の考え方を見て、自分の考え方に合う政党はどこかを選んでみましょう。
自由民主党(自民党:保守、中道右派 左傾傾向)
- 主張: SNS上の誹謗中傷やフェイクニュース(偽情報)から国民を守るための法整備や、ネット上の権利侵害への迅速な対応を重視しています。政府機関からの削除要請は、国民の権利(名誉やプライバシー)を守るための正当な法的手段であるという立場です。表現の自由は尊重しつつも、無責任な発言に対しては厳しく対処することで、健全で安全な情報空間を維持すべきとしています。特に、大規模災害時や選挙時の偽情報対策には積極的です。
立憲民主党(革新、中道左派、リベラル)
- 主張: 政府によるSNSへの介入には「言論の自由」の観点から非常に慎重な姿勢です。日本からの削除要請が世界で突出している状況は、「民主主義の危機」につながるとして問題視しています。政府機関による削除要請の件数や内容について、国会での徹底した情報公開と、国民の知る権利を最優先にするよう求めています。単なる権利侵害だけでなく、政治批判などの言論が不当に排除され、国民の意見が抑圧されていないか、監視を強化すべきと主張しています。
日本維新の会(保守、右派、リベラル)
- 主張: SNSでの誹謗中傷や犯罪予告などの違法行為に対しては、厳正な対応が必要としています。しかし、政府機関による過度な言論への介入は、「自由な社会」を阻害する可能性があるため、その透明性の確保と監視体制の構築を求めています。法的な削除要請の手続きについて、客観性と中立性を保つための第三者機関によるチェックを導入するなど、行政の肥大化を防ぐ観点から慎重な対応を主張しています。
公明党(中道、保守)
- 主張: ネット上の人権侵害やいじめといった問題の解消を最優先に掲げています。SNSの運営企業に対して、利用者の安全を守るための積極的な対策を求める一方、政府による削除要請が「言論の自由」を不当に侵害しないよう、バランスの取れた対応が必要としています。特に若者や子どもたちが安心して利用できるネット環境の整備や、情報リテラシー教育の強化を訴えています。
国民民主党(中道、保守、リベラル)
- 主張: 個人の自由と表現の自由を尊重する立場です。政府機関からの削除要請が突出している現状に対しては、その妥当性を厳しくチェックすべきとしています。特定の情報や意見を政府の意向で排除するような動きは、民主主義社会のあり方として問題があるため、政府による介入の範囲を明確に限定し、国民の権利を保護するための法制度の見直しが必要であると主張しています。
日本共産党(革新、左派)
- 主張: 政府による言論への介入は、「憲法で保障された表現の自由の侵害」に直結するとして強く反対しています。日本からの削除要請件数が世界一であることは、「事実上の言論統制」であると批判し、政府に対してその法的根拠と妥当性を徹底的に追及しています。特に、政府批判や社会運動に関する言論が不当に抑圧されていないか、厳しい監視を行うべきとしています。
参政党(保守、右派)
- 主張: 日本の伝統や国益を守る観点から、SNS上で流布される外国からの誤情報や日本の国益を損なう情報に対しては、厳格な対策が必要としています。ただし、政府による過度な国民への監視や表現の自由の制限には反対し、国民自身が正しい情報を見極める力(情報リテラシー)を高めるための教育や啓発を重視すべきと主張しています。
れいわ新選組(革新、左派)
- 主張: 弱者やマイノリティ(少数派)の意見を排除するような「見えない圧力」に強く反対しています。政府機関からの削除要請が、権力への批判的な意見や社会の不都合な真実を隠蔽するために使われることに強い懸念を示しています。表現の自由を最大限に保障し、権力に対して自由に発言できるための環境を整備すべきと主張しています。
日本保守党(保守、右派)
- 主張: 日本の安全保障や国益を脅かすような情報、特に外国からの意図的な偽情報やプロパガンダに対しては、政府が毅然とした態度で対処すべきとしています。一方で、健全な愛国心に基づく意見や政府への批判が不当に削除されることには反対し、言論の自由と国の安全のバランスを重視する立場です。
まとめ: 日本のSNS言論統制の突出は、民主主義社会への問いかけです
X(旧Twitter)に対する政府機関からの削除要請件数が、国際的に見て日本がダントツで多いという事実は、私たちが当たり前だと思っている「言論の自由」が、実は政府の介入によって見えない形で制限されているのではないか、という強い疑問を投げかけています。
政府機関は、「名誉毀損」や「プライバシー侵害」といった合法的な理由で削除要請を行っていますが、その膨大な件数がもたらす「萎縮(いしゅく)効果」によって、国民の批判的な意見がSNSという公開の場から消えていくという副作用を生み出しています。
私たちは、この現実に対して、どちらの選択をすべきでしょうか。
- 「安全」を優先する: 政府機関の積極的な介入を支持し、SNS上の誹謗中傷や偽情報を徹底的に取り除くことで、安心・安全な情報空間を守ることを優先する。
- 「自由」を優先する: 政府機関による過度な介入を批判し、国民一人ひとりが自由に意見を表明できる「言論の自由」を最大限に守ることを優先する。
この問題は、単なるSNSのルールではなく、私たちがどのような民主主義社会に生きたいかという根本的な問いです。あなたが大切にしたいのは「安全」でしょうか、それとも「自由」でしょうか。この問題を深く理解し、未来を決める選挙で自分の意思を表明することが、私たちに求められています。


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